【医師解説】揺さぶられっ子症候群とは?原因や5つの対策について
目次
清益 功浩 先生
「揺さぶられっ子症候群ってどんな症状?」「普段の生活で注意できることはある?」「どのように対処したらいい?」そんな疑問を抱えてはいませんか。
揺さぶられっ子症候群は、赤ちゃんを激しく揺さぶることで脳に重度の損傷が生じることです。最悪のケースとして、重度の障害や命の危険を引き起こす可能性もあります。
しかし、どの程度の揺れが赤ちゃんにとって危険なのか不安に感じる人もいるでしょう。この記事では揺さぶられっ子症候群の原因や対策についても解説します。
赤ちゃんとの生活に不安を感じている人は、ぜひこの記事を参考に揺さぶられっ子症候群について家族と話してみてください。
揺さぶられっ子症候群(乳幼児揺さぶられ症候群)とは
揺さぶられっ子症候群とは、乳幼児が激しく揺さぶられることによって脳に重度の損傷が生じることです。乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)ともいわれます。
表面的な外傷はありませんが、以下のような合併症がみられるのが特徴です。
- 網膜出血
- 硬膜下血腫
- くも膜下出血
- 脳損傷
頭蓋骨内で多量の出血によって脳が圧迫されると、重度の障害や命に関わる危険性があります。
赤ちゃんが揺さぶられっ子症候群を引き起こす理由は以下のとおりです。
- 身体に対して頭が大きい
- 首の筋肉が未発達
- 頭蓋骨と脳の間に隙間がある
激しく揺さぶられると、脳が頭蓋骨にぶつかるため、血管や神経に損傷を与えてしまいます。
しかし、普通に赤ちゃんを抱っこしたり、あやしたりする程度の揺れであれば問題ありません。
赤ちゃんの脳は発達段階にあり、損傷を受けやすいことを理解したうえで、揺さぶられっ子症候群の予防に努めましょう。
揺さぶられっ子症候群の主な症状
揺さぶられっ子症候群の主な症状は、以下のとおりです。
- 意識障害(ぐったりしている・うとうと眠っていることが増える・目線が合わない)
- 嘔吐
- 呼吸困難
- 痙攣(けいれん)
激しい揺さぶりによって脳細胞が破壊され、低酸素状態になることで、揺さぶられっ子症候群を引き起こします。
意識障害や呼吸困難、嘔吐などの症状がみられたら、速やかに小児科を受診しましょう。
以下のような検査を実施することで、揺さぶられっ子症候群であるかを確かめられます。
- 頭部CT
- MRI検査
- 眼底カメラによる眼底出血の確認
脳の損傷によって、身体機能・学習機能・精神機能にも影響を及ぼす可能性があるので、早期の治療が欠かせません。
重症化すると以下のような後遺症が残る場合があります。
- 失明、視力障害
- 言葉の遅れ、学習障害
- 脳性麻痺
揺さぶられっ子症候群は深刻な状態を引き起こしてしまうため、早期の受診と適切な治療、予防が大切です。
揺さぶられっ子症候群の3つの原因
揺さぶられっ子症候群の主な原因は、以下の3つです。
- 頭への強い衝撃
- 空中に投げるような「高い高い」
- 不適切なチャイルドシートで長時間のドライブ
基本的に、普通のあやし方では揺さぶられっ子症候群は起こりません。
頭に連続して強い揺れが加わらないように注意しましょう。
1.頭への強い衝撃
以下のように強く揺すると頭部に衝撃が加わり、揺さぶられっ子症候群の原因となってしまいます。
- 2秒間に5回以上頭を急激に揺する
- 顎が胸につくぐらい頭を前後にガクンガクン動かす
一般的に、普通のあやし方では、揺さぶられっ子症候群を引き起こす心配はありません。
しかし、赤ちゃんが泣き止まないとストレスを感じてしまい、衝動的に強く揺すってしまうことがあります。
強く揺すって泣き止ませようとすると、脳に重大な損傷を与える可能性があるので、絶対にやめましょう。
赤ちゃんに衝動的に接してしまいそうな場合は、赤ちゃんの安全を確保したうえで一人別の部屋に移動してみるのも1つの方法です。
パパまたはママや祖父母など赤ちゃんを任せられる人がいれば、一時的にリフレッシュの時間を取るのも良いでしょう。
赤ちゃんの安全を守るためには、一人で悩みを抱え込みすぎないことも大切です。
2.空中に投げるような「高い高い」
首の筋肉が未発達な赤ちゃんは、激しい「高い高い」によって、揺さぶられっ子症候群になる可能性があります。
基本的に、ゆっくりとした上下の動きであれば問題ありません。
空中に投げたり早いスピードで上下に動かしたりするのは危険なのでやめましょう。
特に、新生児期から首がすわるまでは、頭部に衝撃を受けやすいので、「高い高い」はしないほうが賢明です。
また、首の筋肉や脳が発達する1歳以降までは、激しい「高い高い」もやめたほうが良いでしょう。
子どもをあやしているつもりでも、揺さぶられっ子症候群を引き起こす可能性があります。
赤ちゃんの脳や首の筋肉は未熟なので、激しい動作はさけ、安全を第一に考えるのが重要です。
3.不適切なチャイルドシートで長時間のドライブ
基本的に、正しいチャイルドシートの向きでしっかりとシートベルトをしていれば、ドライブ自体を心配しすぎる必要はありません。
ただし、サイズの合っていないチャイルドシートで、舗装されていない激しく揺れる道を長時間移動すると、揺さぶられっ子症候群のリスクが高まります。
そのため、長時間の車移動をする際は、1時間半〜2時間ごとに休憩を取るように心がけた方がよいでしょう。
休憩の際には、赤ちゃんをチャイルドシートから降ろすのがおすすめです。
また、首がすわる前の赤ちゃんであれば、水平型のチャイルドシートを使い、ヘッドギアで頭を保護するとより安全に移動できます。
一般的に、揺さぶられっ子症候群は、通常の生活をするなかで発症することはありません。
里帰りからの帰宅のように長時間の移動をしても、母乳やミルクを飲まない、嘔吐・痙攣などの症状がみられなければ問題ありません。
揺さぶられっ子症候群を防ぐための5つの対策
揺さぶられっ子症候群を防ぐには、以下の5つの対策がおすすめです。
- リフレッシュの時間をつくる
- 揺さぶられっ子症候群の知識を共有する
- 赤ちゃんを無理に泣き止ませようとしない
- かかりつけの小児科医に相談する
- 保健師に相談する
普段の生活のなかでは過度に心配する必要はありません。しかし、赤ちゃんを乱暴に扱ってしまわないような環境は整えておきましょう。
1.リフレッシュの時間をつくる
揺さぶられっ子症候群は、保護者がストレスの限界に達したり、カッとなってしまったりして赤ちゃんに当たってしまうことが原因になる傾向にあります。
そのため、イライラが限界になる前に、リフレッシュの時間をつくるのがおすすめです。たとえば、以下のような方法が効果的でしょう。
- 赤ちゃんと離れてひとりになる時間を作る
- 家族に赤ちゃんの面倒をみてもらう
- 友人と電話で話す
ストレスや疲労が限界になる前に、自分に合ったリフレッシュ方法を考えておきましょう。
赤ちゃんのころは言葉を使った意思疎通もとれず、長時間泣き叫ばれるケースもあります。
赤ちゃんへの衝動的な行動を防ぐためにも、ママやパパのメンタルケアも心がけるのが重要です。
2.揺さぶられっ子症候群の知識を共有する
子育てに関わる大人全員が赤ちゃんの適切な扱い方を理解しているとは限りません。
そのため、家族と揺さぶられっ子症候群についての知識を事前に共有しておくのも大切です。
たとえば、以下のような知識を共有しておくと良いでしょう。
- どの程度の強さで揺さぶると危険なのか
- 抱っこやあやす際に気を付ける点
- 赤ちゃんの安全な接し方
特に、首がすわる前の赤ちゃんは「高い高い」によって揺さぶられっ子症候群を引き起こす可能性があるので、危険性をしっかり伝えておく必要があります。
また、万が一に備えて、かかりつけの小児科医や夜間診療の情報なども共有しておきましょう。
赤ちゃんが安全に過ごすためには、子育てに関わる大人が正しい知識を身に付けておかなければなりません。
3.赤ちゃんを無理に泣き止ませようとしない
無理に泣き止ませようとすると、焦ってイライラした気持ちが赤ちゃんに伝わって、いつまでも泣き続けてしまいます。
赤ちゃんが泣く理由はさまざまで、空腹やおむつ交換の必要性など不快な原因が明確であれば対処も可能です。
一方で、明確な理由もなく泣いていることもあり、不快な原因を取り除いても泣き止まない場合も少なくありません。
特に生後1〜2ヶ月ごろは、泣く頻度がピークを迎えるとされています。
泣き止まないことにイライラしないように、赤ちゃんから少し離れて気持ちを落ち着かせるのも有効な方法のひとつです。
4.かかりつけの小児科医に相談する
赤ちゃんの世話にストレスを感じたり、接し方に不安があったりする場合は、かかりつけの小児科医に相談するのもおすすめです。
予防接種や乳幼児健診の際に、相談してみると良いでしょう。
たとえば、赤ちゃんが泣き止まない理由にアトピーの痒みのような医学的な原因があれば、適切な治療によって改善される可能性があります。
また、家族が赤ちゃんに危険な接し方をしている場合は、医師に直接説明してもらい、アドバイスを受けることも可能です。
かかりつけの小児科医は赤ちゃんの成長を見守る身近な専門家であるため、育児に関する不安や悩みを積極的に相談して、ひとりで抱え込まないようにしましょう。
5.保健師に相談する
育児に関するストレスやイライラなどは、保健師に相談するのも良いでしょう。
地域の子育て支援センターや市区町村の窓口などから保健師に相談することで、支援サービスや施設をつなげてもらえる可能性があります。
また、子育て支援センターのなかには、保育士が子どもを見守ってくれる施設もあるので、ママのリフレッシュにも効果的です。
自治体によっては電話での相談窓口を開設しているので、赤ちゃんとの外出が不安なママやパパでも気軽に利用できるでしょう。
誰かに話を聞いてもらうだけでもストレスが和らぐ場合もあるため、ひとりで悩みを抱え込まないようにするのが重要です。
揺さぶられっ子症候群に関するよくある質問
揺さぶられっ子症候群についての以下のよくある質問の解説をします。
- 揺さぶられっ子症候群の症状はいつ頃起こりやすい?
- どのくらいの強さで揺すると揺さぶられっ子症候群になる?
- 揺さぶられっ子症候群の初期症状は?
揺さぶられっ子症候群のような症状を赤ちゃんに感じたら、速やかにかかりつけの小児科医に相談しましょう。
揺さぶられっ子症候群の症状はいつ頃起こりやすい?
揺さぶられっ子症候群は、首の筋力が弱く頭部が不安定な新生児から生後6ヶ月ごろに起こりやすいとされています。
しかし、頭蓋骨が完成する2歳ごろまでは、脳の間に隙間があり、激しい揺れによるダメージを受けやすいので注意が必要です。
特に、赤ちゃんを空中に投げるような激しい「高い高い」は、揺さぶられっ子症候群を引き起こす危険があります。
一方で、以下のような程度の揺れでは症状が出にくいとされています。
- 日常の抱っこやあやし
- バウンサーの適度な揺れ
- 車の軽い揺れ
通常の生活で起こり得る揺れ程度であれば、揺さぶられっ子症候群にはならないので安心してください。
どのくらいの強さで揺すると揺さぶられっ子症候群になる?
以下のような行為をすると、揺さぶられっ子症候群のリスクが高まります。
- 2秒間に5回以上頭を急激に揺する
- 「高い高い」で空中に放り投げてキャッチする
- 繰り返し急に持ち上げて下ろす
- ゆりかごを激しく揺する
顎が胸につくほど、ガクンガクンと頭が揺れるような強さで揺すってしまうと、脳に大きなダメージを与え、揺さぶられっ子症候群を引き起こす可能性があります。
揺さぶられっ子症候群の危険が高い行為をしたあとに、以下のような症状がみられたら速やかにかかりつけの小児科医を受診しましょう。
- 嘔吐を繰り返す
- ぐったりしている
- 普段と様子が異なる
揺さぶられっ子症候群は、発症から数ヶ月経って手足の動きの遅れや首がすわらないなどの異変がみられ、発覚するケースもあります。
大丈夫だろうと安易に自己判断せずに、異変を感じたら迷わず医師に相談しましょう。
揺さぶられっ子症候群の初期症状は?
揺さぶられっ子症候群の主な初期症状は以下のとおりです。
- ミルクや母乳を飲まない
- 嘔吐を繰り返す
- 笑わない
- 痙攣する
- 長時間眠り続ける
特に、いつもよりかなりの長時間ミルクや母乳を飲まずに寝ている状態や、起こしてもすぐに眠ってしまうような異常な眠りは危険な兆候です。
激しい揺さぶりに心当たりがあり、初期症状がみられたらすぐに病院に相談しましょう。
救急病院で頭部CTやMRIなどの検査を受け、脳の損傷の有無を確認する必要があります。
揺さぶられっ子症候群は対処が遅れると症状が重篤化し、後遺症が残ったり命の危険性に及んだりします。
初期症状がみられたらすぐに病院を受診し、早期に治療を開始しましょう。
揺さぶられっ子症候群を防いで赤ちゃんの安全を守りましょう
赤ちゃんとの生活は幸せを感じますが、イライラしてしまうことも少なくありません。
しかし、赤ちゃんを泣き止ませようと激しく揺さぶってしまったり、間違った扱い方をしてしまったりすると揺さぶられっ子症候群の発症の危険性が高くなります。
そのため、赤ちゃんを無理に泣き止ませようとする必要はありません。
赤ちゃんの安全を確保したうえで、その場を離れたり祖父母にお世話をお願いしたりして、ひとりで抱え込まないようにしましょう。
また、必要に応じてかかりつけの小児科医や保健師などに相談するのもおすすめです。
揺さぶられっ子症候群に不安を感じている人は、ぜひこの記事を参考に、赤ちゃんと安全な生活を送ってください。