公開日 2025/03/28
【医師解説】ドーナツ枕で赤ちゃんの頭のゆがみは予防できる?効果や危険性について

目次
この記事の監修者

さの赤ちゃんこどもクリニック 院長
佐野 博之 先生
Q.ドーナツ枕やベビー枕は絶壁などの頭のゆがみ予防に効果があるのでしょうか?
A.レビューサイトや口コミなどで、効果があったという書き込みなどもありますが、現在のところ、ドーナツ枕やベビー枕が頭のゆがみ予防に効果があるかどうかについては、科学的に十分な根拠はありません。
また、アメリカのFDA(医薬品や医療機器の安全性・有効性を規制する政府機関)から、赤ちゃんの頭のゆがみを予防・治療する枕は使用しないようにと、保護者の方や医療従事者向けに注意喚起されています。
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Q.なぜ、利用に関して注意喚起が出ているのでしょうか?
A.注意喚起が出ている理由は大きく2つあります。
1つ目は、乳幼児突然死症候群(SIDS)などの赤ちゃんの窒息リスクが増加する可能性があるためです。赤ちゃんが枕の周りに顔を押し付けたり、枕の隙間に顔を挟ませたりすることが原因で、窒息事故が発生する危険性が高まるからです。
2つ目は、先ほども少しお話ししましたが、安全性と有効性が証明されていないからです。ドーナツ枕やベビー枕は、仰向けに寝た乳幼児の後頭部を包み込むように設計されています。赤ちゃんの頭の形状や対称性を改善し、他の病状の予防や治療に効果があるとして販売されていますが安全性と有効性は証明されていません。日本でも、有効性や安全性は検証されていないと思いますので、十分な注意が必要です。

Q.乳児突然死症候群(SIDS)とはなんでしょうか?
A.乳児突然死症候群(SIDS)とは、1歳以下の健康に見えていた乳児が睡眠中に予期せず突然死亡することです。日本ではおおよそ出生6,000~7,000人に1人と推定され、生後2ヵ月から6ヵ月に多いとされています。SIDSに関連する危険因子は知られているものの、これを確実に防ぐ方法はまだ確立していません。
しかし、SIDSによる死亡数は、赤ちゃんをうつ伏せ寝や横向け寝ではなく、あお向けに寝かせることで劇的に減少しています。その他、母乳で育てられている赤ちゃんの方がSIDSの発生率が低いということや、喫煙がSIDS発生の危険因子になっていることがわかっています。
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Q.ドーナツ枕やベビー枕など赤ちゃん用の枕を利用しない場合、どのように寝かせるのが良いのでしょうか?
A.安全な睡眠環境を促進するために、米国小児科学会(AAP)は、枕、おもちゃ、柔らかい物、緩い寝具を使用せず、平らな(傾斜していない)面にある裸のベビーベッドで乳児を仰向けに寝かせることを推奨しています。
また、日本でも消費者庁より、赤ちゃんの寝具について、以下3つの注意ポイントが挙げられています。
①敷き布団やマットレスなどは、固めのものを使用する
ふかふかの柔らかい敷き布団、マットレスや枕は、うつぶせになった場合、顔が埋ってしまい、鼻や口が塞がれ、窒息するリスクがあります。
②掛け布団は、赤ちゃんが払いのけられる軽いものにし、顔に被らないようにする
掛け布団が鼻や口を覆わないように、いつでも赤ちゃんの顔が見られる状態にしましょう。掛け布団以外でもタオルやぬいぐるみなど、顔を覆ってしまうようなものはベッド周りには置かないようにしましょう。
③ひも付きの枕やよだれかけなど、寝ている赤ちゃんの顔の近くに置かないようにする
寝ている赤ちゃんの首にひもが巻き付き、窒息するリスクがあります。

Q.赤ちゃんの頭のゆがみ予防のために何ができるでしょうか?
A.頭のゆがみの予防や、軽度のゆがみの改善を試みる場合には体位変換やタミータイム(うつぶせで遊ばせる時間をとる)を行ってみるのが良いでしょう。重度のゆがみの場合は、自然に改善するのは難しくなりますのでヘルメット治療という選択肢もあります。
①定期的に体の向きを変える(体位変換)
ベッドやベビーカーで寝ている方向や、授乳の向き、抱っこの向き等、バランスよく体の方向を変えてあげることで、赤ちゃんの頭の圧力が均等に分散され、頭のゆがみを防ぐことができます。
②うつぶせで遊ばせる時間を取る(タミータイム)
うつぶせで遊ばせることによって、首や背中の筋肉を鍛えると同時に頭の圧力を軽減し、頭形変形の予防に役立ちます。1日2~4回程度、最初は数分だけでも大丈夫なので、少しずつ時間を増やし、トータル1日60分程度を目安に実施すると良いと思います。
うつ伏せのまま寝かせることは、乳児突然死症候群(SIDS)の危険性が高まりますので、必ず赤ちゃんが起きている時に行い、目を離さないようにしましょう。
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赤ちゃんの頭はとてもやわらかく、少しの圧力でもゆがんでしまいます。そのため赤ちゃんの頭のゆがみについて悩む保護者の方も多くいらっしゃいます。お子さまの頭の歪みが気になったら、一人で悩まずぜひ医療機関へご相談ください。
実際の現場では何が起きている?医師が語る頭のゆがみ予防の相談と指導
ドーナツ枕の効果や危険性について理解した上で、実際の診療現場では頭のゆがみ予防についてどのような相談が寄せられ、どのような指導が行われているのでしょうか。現場で診療を行っている医師の視点から、予防指導の実際と相談のタイミングについてご紹介します。
診療現場での予防指導と判断
診療現場では、頭のゆがみ予防に関する相談が多く寄せられており、早期の段階で適切な予防指導を行うことを重視しています。ドーナツ枕などの使用について相談された際には、科学的根拠と安全性の観点から説明を行い、代わりに体位変換やタミータイムといった効果的で安全な予防方法をご案内しています。
重要なのは「枕に頼らない」という考え方です。診療では、赤ちゃん自身の自然な動きを促すことで頭への圧力を分散させ、ゆがみを予防することを推奨しています。生後1〜2か月の早い段階で体位変換やタミータイムの習慣をつけることで、多くの場合、ヘルメット治療を避けられる可能性があります。
月齢が進んでからでは予防効果が限られてくるため、できるだけ早期から適切な予防方法を実践していただくことが大切です。
「予防は非常に重要だと考えています。当院のデータでも、1か月時点で頭の形がかなり変形してしまうお子さんがいることが分かっています。産院退院直後から向き癖を意識した体位変換が必要ですが、出産直後のお母さんたちは授乳や睡眠不足で疲れており、そこまで気を配るのが難しいこともあります。理想的には、出産前の母親学級などでこうした情報を伝え、体位変換の方法を教えておくことが有効だと思います。」(長野 伸彦先生 日本大学医学部附属板橋病院)
参照元:赤ちゃんの頭のかたちが気になるなら早めの相談を—長野先生が語る頭のゆがみとヘルメット治療の実際
予防相談のタイミングと早期指導の効果
診療現場では、頭のゆがみが進行する前の早期段階での相談が増えています。特に生後1〜2か月の時期に向き癖や寝る姿勢について相談にいらっしゃる方が多く、この段階での予防指導が非常に効果的です。
早期に相談していただくことで、ドーナツ枕などの安全性が確立されていない製品に頼る必要がなく、体位変換やタミータイムといった安全で効果的な予防方法を実践できます。1か月健診で向き癖が強いお子さんに対して早期の指導や介入を行うことで、改善するケースも多くあります。
時期 | 予防指導の内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
出産前(母親学級) | 体位変換の方法・タミータイムの重要性を事前学習 | 出産後すぐに実践でき、予防効果が高い |
生後1か月健診 | 向き癖の確認・体位変換指導 | 早期介入で改善、ヘルメット治療を避けられる可能性 |
生後1〜2か月 | 予防方法の継続的な指導 | 頭のゆがみの進行を防ぐ |
「1~2か月頃に向き癖がつきかけた時点での早めのご相談をお勧めします。早い段階でアドバイスができれば、ヘルメット治療を避けられる場合もあります。」(伊藤 薫先生 香里園いとう小児科)
参照元:赤ちゃんの頭の形、いつから相談するべき?伊藤先生が語る早期発見と治療選択肢
実践的な予防指導の流れ
赤ちゃんの頭のゆがみ予防に関する診療では、保護者の方に具体的で実践可能な方法をお伝えすることを心がけています。診療の流れは以下のようになります。
予防指導の実践ステップ:
- 現状確認と説明:赤ちゃんの頭の形や向き癖の状況を確認し、なぜ予防が重要かを丁寧に説明します。ドーナツ枕などの製品について相談された場合は、科学的根拠がないことや窒息リスクについてお伝えします。
- 体位変換の指導:寝かせる向き、授乳時の抱き方、ベビーカーやバウンサーの使用時間など、具体的な体位変換の方法を実演を交えながらご説明します。毎回同じ向きにならないよう工夫していただくことが大切です。
- タミータイムの実践方法:うつぶせ遊びの安全な実施方法、1日の目安時間(トータル60分程度)、月齢に応じた進め方をお伝えします。起きている時間に保護者の方が見守りながら行うことが重要です。
診療では、保護者の方が無理なく継続できる方法をご提案し、次回の健診や診察時に経過を確認します。早期から予防を意識していただくことで、3〜5か月になっても体位変換だけでは改善が難しくなる状況を避けることができます。
「1か月健診で向き癖が強いお子さんに対して早期の指導や介入を行うことで、改善するケースもあります。しかし、3〜5か月になると、変形が重度な場合は体位変換だけでは改善が難しくなるため、早期の予防が非常に重要だと思います。」(長野 伸彦先生 日本大学医学部附属板橋病院)
参照元:赤ちゃんの頭のかたちが気になるなら早めの相談を—長野先生が語る頭のゆがみとヘルメット治療の実際
頭のゆがみ予防が気になったら、まずは相談を
赤ちゃんの頭のゆがみ予防について少しでも気になることがあれば、ドーナツ枕などの製品に頼る前に、まずは専門の医療機関に相談することをおすすめします。診察を受けることで、安全で効果的な予防方法について具体的なアドバイスを受けることができます。
早期から適切な予防方法を実践することで、頭のゆがみの進行を防ぎ、後々のヘルメット治療を避けられる可能性も高まります。一人で悩まず、まずは健診時や小児科受診時に相談してみましょう。
参考:




