公開日 2023/01/16
【医師解説】絶壁頭や斜頭症など、赤ちゃんの頭の形のゆがみは放っておいてもいい?
目次
日本大学医学部小児科 主任教授
森岡 一朗 先生
日本大学医学部小児科 准教授
長野 伸彦 先生
日本大学医学部附属板橋病院 専修指導医
加藤理佐 先生
Q.仰向け寝や向きぐせによる赤ちゃんの頭の形のゆがみは自然に治ると言われていました。先生方は、数多くの頭のゆがみに関する研究をされていますが、実際はいかがでしょうか?
A.赤ちゃんの頭の形の変形は、最近になって関心が高まってきた分野であり、これまであまりエビデンスのある分野ではありませんでした。どのように頭の形が変わっていくのかを解明すべく、私たちは生後1か月から生後6か月にかけての頭の形の変化を追いました。
研究の結果、生後3か月頃に頭のゆがみのピークを向かえますが、生後6か月頃には、生後1か月頃と同程度まで改善することが明らかになりました。
赤ちゃんは横向きで寝てもいい?リスクや横向き寝を直す方法を解説
図 : Miyabayashi H et al. J Clin Med. 2022を元に作成
そして、生後4-8か月頃に重度のゆがみがある方は、約3か月経過した後も、約7割の方が重度のままであったという結果も明らかになりました。そのため、自然な経過の中でゆがみは改善方向に進みますが、「頭の形は、自然に治ります」という一言だけでは、ゆがみがどの程度残るのかを保護者にお伝えし切れてはいないと考えます。
Q.赤ちゃんの頭の形は、なぜゆがんでしまうのでしょうか?
A.赤ちゃんの頭は脳が大きく成長できるよう、やわらかい状態になっています。そのため、胎内の姿勢や出産時の状況、出生後の体位や向きぐせなどにより頭の形がゆがんでしまうと考えられています。日本は、乳幼児突然死症候群の予防のためや伝統的に仰向けにする文化があるため、頭のゆがみがある赤ちゃんは多いと推測されています。
私たちの研究では、生後1か月の時点で、約7%の赤ちゃんが重度のゆがみをもっているという結果が得られています。
Q.絶壁頭や斜頭などの頭蓋変形にはどんな種類があるのでしょうか?
A.斜頭症、短頭症、長頭症の大きく3つに分類されます。
- 斜頭症とは、頭のどちらか片方が平坦になり、頭頂からみると左右非対称に見える形です。左右の向きぐせが強い方は斜頭になりやすい傾向があります。
- 短頭症とは、頭頂からみて、頭の幅に対して前後が短く見える形です。真上に仰向けで寝ることが多い方は短頭傾向になります。いわゆる「絶壁頭」は、短頭症に分類されることが多いです。
- 長頭症とは、頭頂からみて、頭の幅に対して前後が長く見える形です。真横に寝ることが多い方は長頭傾向になります。
Q.頭のゆがみが残ったままだと、どんな影響があるのでしょうか?
1番は整容的な問題があげられます。なんとなく頭の形に違和感があったとしても、保護者の方は毎日赤ちゃんを見ているので、頭のゆがみに気が付かない場合もあります。大きくなった時に「お顔に左右差がある」「帽子が脱げやすい」「ヘッドフォンの位置が合わない」「似合わない髪型がある」等、自尊心が低下してしまう恐れがあります。
また、耳の位置のずれや、歯並びの問題があげられます。
発達に関しては、大部分の乳幼児では問題がないと報告がされていますが、発達の遅れを認めた場合でも、2歳以降に徐々にその差が縮まってくると言われています。発達に関して気になる場合は、健診や予防接種の受診時に私達に御相談頂いたり、保育園や幼稚園、区や市などの周囲のサポートを受けたり、継続的に経過を追っていくのが良いでしょう。
Q.赤ちゃんの頭の形がゆがむ前にできる予防方法はあるのでしょうか?
A.頭を一定の向きで寝かせ続けないことが大切です。
特に生後から首がすわるまでの間に、積極的にタミータイム(*)を行うことが予防につながると考えられています。生後6か月未満の乳児に、1日30分のタミータイムを行うことが推奨されている国もあります。妊娠中に、赤ちゃんの頭の形のことについて保護者に正確な知識を獲得して頂き、出産後に赤ちゃんの体位変換やタミータイムを行って頂く必要があると考えています。うつ伏せ寝は乳幼児突然死症候群のリスクがありますので、赤ちゃんや保護者が寝ている時は仰向けの姿勢にしてください。
*タミータイムとは、保護者の方に見守られながら、おなかの上や床の上でうつ伏せになることを言います。
タミータイム(うつぶせ遊び)とは?6つの効果と月齢別のやり方、注意点について解説
Q.頭がゆがんでしまった際の治療方法にはどういったものがあるのでしょうか?
A.治療方法には、
- 体位変換を行う方法
- 枕を用いる方法
- ヘルメットを用いる方法
などがあります。
- 体位変換は、頭がへこんでしまった部分をこれ以上ベッドに接地しないように頭の向きを変えることです。タオルを頭から背中にいれ、体幹ごと向きを変えることにより、頭も向きやすくなります。
- 枕を用いる方法は、使用する枕のやわらかさ・大きさの違い、使い方によって効果も様々です。
体位変換を行う方法も、枕を用いる方法も、いずれにせよ頭のへこんでしまった部分を接地させない努力が必要です。
ただ、赤ちゃんを縦抱きにした、頭をどこにも接地させない姿勢の場合は、変化を加えることができないため、ゆがみは悪くなりませんが、良くもなりません。 - 上記の方法を継続して行うことが難しい場合や頭のゆがみが強くなる場合は、頭のゆがみを改善するために頭蓋形状矯正ヘルメットを利用する方々も増えています。ヘルメットで頭の扁平化した部分に空間を作り、突出した部分の伸びを抑えることで矯正していきます。国内外の論文で治療効果があることは多数報告されており、頭のゆがみが重度の場合でも対応できる治療法となっています。
いずれにしろ、治療の前に予防することが重要です。少なくとも首がすわる生後3か月頃までは、頭を一定の向きで寝かせ続けないことやタミータイムを積極的に取り入れることを心がけてください。仮に、頭の形がゆがんでしまったとしても早期であればあるほど対処しやすくなりますので、頭のゆがみが気になったら専門の病院に行かれることをおすすめいたします。