公開日 2025/12/09
【医師解説】絶壁や斜頭症など赤ちゃんの頭の形のゆがみは放っておいても大丈夫?ゆがみの原因・予防・対策について

目次
この記事の監修者

日本大学医学部小児科 主任教授
森岡 一朗 先生

日本大学医学部小児科 准教授
長野 伸彦 先生
日本大学医学部附属板橋病院 専修指導医
加藤理佐 先生
Q.仰向け寝や向きぐせによる赤ちゃんの頭の形のゆがみは自然に治ると言われていましたが、実際はいかがでしょうか?
A.赤ちゃんの頭の形の変形は、最近になって関心が高まってきた分野であり、これまであまりエビデンスのある分野ではありませんでした。どのように頭の形が変わっていくのかを解明すべく、私たちは生後1か月から生後6か月にかけての頭の形の変化を追いました。
研究の結果、生後3か月頃に頭のゆがみのピークを向かえますが、生後6か月頃には、生後1か月頃と同程度まで改善することが明らかになりました。

図 : Miyabayashi H et al. J Clin Med. 2022を元に作成
そして、生後4-8か月頃に重度のゆがみがある方は、約3か月経過した後も、約7割の方が重度のままであったという結果も明らかになりました。そのため、自然な経過の中でゆがみは改善方向に進みますが、「頭の形は、自然に治ります」という一言だけでは、ゆがみがどの程度残るのかを保護者にお伝えし切れてはいないと考えます。

赤ちゃんは横向きで寝てもいい?リスクや横向き寝を直す方法を解説
Q.赤ちゃんの頭の形は、なぜゆがんでしまうのでしょうか?
A.赤ちゃんの頭は脳が大きく成長できるよう、やわらかい状態になっています。そのため、胎内の姿勢や出産時の状況、出生後の体位や向きぐせなどにより頭の形がゆがんでしまうと考えられています。日本は、乳幼児突然死症候群の予防のためや伝統的に仰向けにする文化があるため、頭のゆがみがある赤ちゃんは多いと推測されています。
私たちの研究では、生後1か月の時点で、約7%の赤ちゃんが重度のゆがみをもっているという結果が得られています。
Q.絶壁頭や斜頭などの頭の形のゆがみにはどんな種類があるのでしょうか?
A.斜頭症、短頭症、長頭症の大きく3つに分類されます。斜頭症とは、頭のどちらか片方が平坦になり、頭頂からみると左右非対称に見える形です。左右の向きぐせが強い方は斜頭になりやすい傾向があります。短頭症とは、頭頂からみて、頭の幅に対して前後が短く見える形です。真上に仰向けで寝ることが多い方は短頭傾向になります。いわゆる「絶壁頭」は、短頭症に分類されることが多いです。長頭症とは、頭頂からみて、頭の幅に対して前後が長く見える形です。真横に寝ることが多い方は長頭傾向になります。

斜頭症・短頭症・長頭症とは?赤ちゃんの頭のゆがみの種類と見分け方について
Q.頭の形のゆがみが残ったままだと、どんな影響があるのでしょうか?
1番は整容的な問題があげられます。なんとなく頭の形に違和感があったとしても、保護者の方は毎日赤ちゃんを見ているので、頭のゆがみに気が付かない場合もあります。大きくなった時に「お顔に左右差がある」「帽子が脱げやすい」「ヘッドフォンの位置が合わない」「似合わない髪型がある」等、自尊心が低下してしまう恐れがあります。
また、耳の位置のずれや、歯並びの問題があげられます。
発達に関しては、大部分の乳幼児では問題がないと報告がされていますが、発達の遅れを認めた場合でも、2歳以降に徐々にその差が縮まってくると言われています。発達に関して気になる場合は、健診や予防接種の受診時に私達に御相談頂いたり、保育園や幼稚園、区や市などの周囲のサポートを受けたり、継続的に経過を追っていくのが良いでしょう。

Q.赤ちゃんの頭の形がゆがむ前にできる予防方法はあるのでしょうか?
A.頭を一定の向きで寝かせ続けないことが大切です。
特に生後から首がすわるまでの間に、積極的にタミータイム(*)を行うことが予防につながると考えられています。生後6か月未満の乳児に、1日30分のタミータイムを行うことが推奨されている国もあります。妊娠中に、赤ちゃんの頭の形のことについて保護者に正確な知識を獲得して頂き、出産後に赤ちゃんの体位変換やタミータイムを行って頂く必要があると考えています。うつ伏せ寝は乳幼児突然死症候群のリスクがありますので、赤ちゃんや保護者が寝ている時は仰向けの姿勢にしてください。
*タミータイムとは、保護者の方に見守られながら、おなかの上や床の上でうつ伏せになることを言います。
タミータイム(うつぶせ遊び)とは?6つの効果と月齢別のやり方、注意点について解説

Q.頭がゆがんでしまった際の治療方法にはどういったものがあるのでしょうか?
A.治療方法には、
- 体位変換を行う方法
- 枕を用いる方法
- ヘルメットを用いる方法
などがあります。
1)体位変換
頭がへこんでしまった部分をこれ以上ベッドに接地しないように頭の向きを変えることです。タオルを頭から背中にいれ、体幹ごと向きを変えることにより、頭も向きやすくなります。
2)枕を用いる方法
使用する枕のやわらかさ・大きさの違い、使い方によって効果も様々です。
体位変換を行う方法も、枕を用いる方法も、いずれにせよ頭のへこんでしまった部分を接地させない努力が必要です。
ただ、赤ちゃんを縦抱きにした、頭をどこにも接地させない姿勢の場合は、変化を加えることができないため、ゆがみは悪くなりませんが、良くもなりません。
【医師解説】ドーナツ枕で赤ちゃんの頭のゆがみは予防できる?効果や危険性について
3)ヘルメットを用いる方法
上記の方法を継続して行うことが難しい場合や頭のゆがみが強くなる場合は、頭のゆがみを改善するために頭蓋形状矯正ヘルメットを利用する方々も増えています。ヘルメットで頭の扁平化した部分に空間を作り、突出した部分の伸びを抑えることで矯正していきます。国内外の論文で治療効果があることは多数報告されており、頭のゆがみが重度の場合でも対応できる治療法となっています。
いずれにしろ、治療の前に予防することが重要です。少なくとも首がすわる生後3か月頃までは、頭を一定の向きで寝かせ続けないことやタミータイムを積極的に取り入れることを心がけてください。仮に、頭の形がゆがんでしまったとしても早期であればあるほど対処しやすくなりますので、頭のゆがみが気になったら専門の病院に行かれることをおすすめいたします。
実際の現場では何が起きている?医師が語る頭のゆがみの相談と診療の実際
赤ちゃんの頭の形のゆがみについて、実際の診療現場ではどのように判断され、どのような相談が寄せられているのでしょうか。現場で診療を行っている医師の視点から、相談のタイミングや診療の実際についてご紹介します。
診療現場での判断
診療現場では、赤ちゃんの頭のゆがみを確認する際、重症度と月齢を総合的に評価して対応を決定しています。初診時にはまず視診を行い、その後ノギスや3D撮影装置を用いて客観的に頭の形状を測定し、数値をもとに重症度を評価します。
重要なのは「治療ありき」ではないという姿勢です。診療では、軽度から中等度のゆがみであれば体位変換やタミータイムの指導を行い、経過を観察することも多くあります。重度のゆがみが認められる場合や、体位変換だけでは改善が難しいと判断された場合に、初めてヘルメット治療などの選択肢をご提案しています。
月齢や頭囲の成長具合によって対応方法も変わるため、それぞれのお子さんとご家族にとって最善の選択を一緒に考えていくことを大切にしています。
「ヘルメット治療をしなくても改善する人には、ヘルメット治療は不要なので、変形のピークを見極めるのが大事なんです。治療するかどうか非常に悩まれる人もいますが、迷うケースは存分に迷っていただきたいなと思っています。決断を急ぐ必要はないです。」(森岡 一朗先生 板橋セントラルクリニック)
森岡先生が解説する頭蓋変形に対するヘルメット治療の効果、診療の流れ、開始時期のポイント
相談のタイミング
診療現場では、ここ数年で頭の形に関する相談が大幅に増えており、早期に受診される方が多くなっています。以前は生後6〜7か月での受診が多かったのですが、最近では生後3〜4か月の段階で相談にいらっしゃるケースが増えています。
推奨される相談タイミングは生後3〜4か月頃です。この時期は頭のゆがみのピークにあたり、適切な評価と対処が可能になります。ただし、ご家族が心配されている場合は、基本的にいつでも受診していただいて構いません。軽症の場合でも相談窓口として活用していただくことで、早期の予防指導や隠れた病気の発見につながることがあります。
月齢 | 主な対応方法 | ポイント |
|---|---|---|
生後1〜2か月 | 体位変換・タミータイム指導 | 形の変化が始まりやすい時期 |
生後3〜4か月 | 診察・評価、必要に応じて治療検討 | ゆがみの差が最も出やすい時期 |
生後6か月以降 | 診察・説明・経過観察または治療 | 形の特徴が落ち着きやすい時期 |
「ここ4〜5年で相談は非常に増えています。2020年に外来を立ち上げた当初、受診する患者さんの月齢は6〜7か月が多かったのですが、近年は3~4か月の段階で紹介されるケースが増えています。ヘルメット治療は3〜6か月の間に開始すると効果が高いとされていますが、このタイミングでの受診が増えてきたことから、日本国内でもこの治療に対する知識や理解が広まってきているのだと思います。」(長野 伸彦先生 日本大学医学部附属板橋病院)
赤ちゃんの頭のかたちが気になるなら早めの相談を—長野先生が語る頭のゆがみとヘルメット治療の実際
診療の流れ
赤ちゃんの頭の形に関する相談は、小児科や形成外科、脳神経外科などで受けることができます。多くの医療機関では「頭の形外来」や「頭蓋変形外来」といった専門外来を設けており、予約制で診療を行っています。
初診時の診療ステップは以下のようになります。
初診時の診療ステップ
1)問診・診察
いつ頃から気になり始めたか、どのような状態かなどを詳しくお伺いし、視診で頭の形を確認します。同時に頭蓋骨縫合早期癒合症などの疾患の有無も確認します。
2)計測・撮影
ノギスを使った測定や3D撮影装置による客観的な評価を行います。多くの医療機関では当日中に結果をお伝えし、数値をもとに重症度を説明します。
3)結果説明・方針の相談
測定結果と月齢を考慮して、体位変換による経過観察、ヘルメット治療など、どのような対応が適切かをご説明します。治療の決定を急ぐ必要はなく、ご家族でじっくり検討していただくことができます。
診療では、結果だけでなく過程にも納得していただけるよう丁寧にお話しすることを心がけています。メリットやデメリット、費用など、あらゆる要素についてしっかりと説明し、ご家族とお子さんにとって最善の選択を一緒に考えていきます。
「お子さんとそのご家族の両方、つまり全体を見て、結果だけでなく過程にも納得していただけるように心がけています。特に、治療方針を決める際には、『もし自分の子どもだったら、どのような治療を望むだろうか?』と常に自問しています。ご家族と本人にとって、全体としてメリットがある選択を心がけ、丁寧にお話をしています。」(長野 伸彦先生 日本大学医学部附属板橋病院)
赤ちゃんの頭のかたちが気になるなら早めの相談を—長野先生が語る頭のゆがみとヘルメット治療の実際
赤ちゃんの頭の形が気になったら、まずは相談を
赤ちゃんの頭の形について少しでも気になることがあれば、一度専門の医療機関に相談してみることをおすすめします。診察を受けることで、現在の状態を客観的に知ることができ、適切な対処方法についてアドバイスを受けることができます。
治療が必要かどうかにかかわらず、後悔が残らない選択ができるよう、まずは専門医に相談して現在の状態を確認することが大切です。早期に相談することで、体位変換などの簡単な予防法で改善できる可能性も高まります。




