【医師解説】赤ちゃんの向き癖は自然に治りますか?原因や対策を教えてください。

目次
解説頂いた先生

さの赤ちゃんこどもクリニック 院長
佐野 博之 先生
資格
日本小児科学会小児科専門医・指導医、日本周産期・新生児医学会周産期(新生児)専門医・指導医、地域総合小児医療認定医、子どもの心の相談医
大阪大学医学部卒。
大阪大学医学部附属病院入局。りんくう総合医療センター、大阪大学医学部附属病院、大阪母子医療センター、愛染橋病院、淀川キリスト教病院 小児科 主任部長/母子センター長を経て、2020年より現職。
Q. 向き癖とはなんですか?いつも同じ向きで寝ているのですが大丈夫でしょうか?
赤ちゃんの向き癖とは、頭を一定の向きに寄せたまま過ごす状態のことを指します。一般的に、赤ちゃんは寝ているときに頭の向きを変えたり、横を向いたりすることが多いのですが、向き癖があると頭を一定の向きに寄せる癖がついてしまい、その方向にしか顔を向けなくなることがあり、斜頭症など位置的頭蓋変形症を生じることがあります。また、首や背中の筋肉が偏って発達してしまうことがあり、長期的には姿勢や運動能力に影響を及ぼす場合があるため、早めに対処する必要があります。もし、気になるようでしたら健診の際などに医師に相談してみるのが良いでしょう。
参考 :
Flannery, Ann Marie, et al. "Congress of neurological surgeons systematic review and evidence-based guidelines for the management of patients with positional plagiocephaly: executive summary." Neurosurgery 79.5 (2016): 623-624.
Q. 向き癖はなぜ起こるのでしょうか?
様々な原因が考えられますが、次のようなことが考えられます。
出産時や胎児期の姿勢
赤ちゃんが子宮内で長時間同じ姿勢を取っている場合、その姿勢が癖になってしまうことがあります。例えば、頭を右側に寄せたまま長時間過ごしていた場合、赤ちゃんが生まれてからも頭を右側に寄せる癖がつきやすくなります。また、出産時の吸引分娩や鉗子分娩などの影響で生じてしまうこともあります。
身体的な問題
赤ちゃんが首の筋肉が弱かったり、首を支えるための筋肉が十分に発達していない場合、特定の向きに頭を寄せることが多くなることがあります。また、胎位不良などの身体的な問題が原因になることがあります。
他にも、色々な原因がありますが、赤ちゃんの頭はとてもやわらかくできているので、大人であれば変形しないようなちょっとした外部の圧力で簡単に頭の形が変形してしまいます。
参考:
Nuysink, Jacqueline, et al. "Prevalence and predictors of idiopathic asymmetry in infants born preterm." Early human development 88.6 (2012): 387-392.
Q. 生まれた時から右向きで寝ていることが多いのですが、遺伝が原因になることもあるのでしょうか?
向き癖やあたまの歪みに関しては、遺伝が関わっている場合とそうでない場合があります。1)の論文によると、遺伝的要因が関与することが報告されています。
しかし、現時点では具体的な遺伝子や遺伝的メカニズムについてはまだ十分に解明されていないため
遺伝が原因となることはまれで、多くの場合は、遺伝以外の影響が大きいとされています。
参考:
1)Arnold, Laura T., et al. "The genetics of plagiocephaly: a review and introduction of a new hypothesis." Journal of Neurosurgery: Pediatrics, vol. 9, no. 1,(2012):1-8.
Q. 赤ちゃんの向き癖をそのままにすると、将来どのような影響がありますか?
軽度な向き癖であれば成長に合わせて自然と改善されていくこともあります。
また、生後1〜2ヶ月頃までであれば、意識して逆を向かせるなどして改善することはできます。しかし、深刻な場合は、次のようなことが起こる可能性があります。
首の発達への影響の可能性
赤ちゃんが常に同じ方向に頭を寄せるため、その方向に首の筋肉が発達し、逆に寄せない方向の筋肉が弱くなってしまうことがあります。これが続くと、首の発達に影響を与え、姿勢異常を引き起こすことがあります。
頭の形への影響の可能性
頭の形に偏りが生じることがあります。例えば、常に左側に頭を寄せている場合、左側が平らになり、右側が突き出た形になることがあります。これが長期化すると、頭の形に変形が生じ、後に変形による支障が生じる場合があります。
運動能力への影響の可能性
身体の偏りが生じるため、バランス感覚や運動能力に影響を与えることがあります。
これまでは、頭の向き癖やゆがみが成長発達の遅れや機能障害の原因にはならないと考えられてきましたが、近年では、頭のゆがみと運動や神経発達への関連が注目されています。しかしながら、今のところ明確な関連性は証明されていません。
参考:
Persing, John, et al. "Prevention and management of positional skull deformities in infants." Pediatrics 112.1 (2003): 199-202.
Flannery, Ann Marie, et al. "Congress of neurological surgeons systematic review and evidence-based guidelines for the management of patients with positional plagiocephaly: executive summary." Neurosurgery 79.5 (2016): 623-624.
Q. 向き癖を改善するには何をすれば良いでしょうか?
生後1〜2ヶ月頃までであれば、意識して逆を向かせるなどして改善することができる場合もありますが、なかなかうまくいかないことも多いです。
向き癖を改善するには、大きく2つの方法があります。
①頭部の位置を変える
常に同じ方向を向いている場合は、反対側に向かせたり、頭部の位置を変えたりすることで、頭の形が均等になるように促すことができます。物を目の前に置いたり、音や声で注意を引くことで、赤ちゃんが自発的に頭を向けるように促すことも効果的です。
②タミータイム(うつ伏せ運動)
タイミータイムとは赤ちゃんが起きている時に、大人が見守っているなかで、うつ伏せにして過ごさせることを言います。うつ伏せ姿勢にすると、首が座る前の赤ちゃんでも頭を持ち上げたり横に向けたりしようとします。この運動が、首から背中にかけてや肩甲骨周辺の筋肉の発達や、体を支えるためにバランスをとる感覚に良い影響を与えます。ずっと同じ姿勢でいることによる頭の変形を防ぐ効果も期待できるとされています。
上記①②の方法を試しても改善されず、生後3ヶ月以降で、頭の形に変形をきたしている場合は、さらに変形が強くなる可能性もあるため、ヘルメット治療も選択肢として考えてもいいかもしれません。
頭の形の変形を改善することにより左右への向きやすさを均等にして、向き癖の改善を狙うことも目的とします。ヘルメット治療とは、赤ちゃんの頭の形に合わせた専用のヘルメットを装着することで、赤ちゃん自らの頭蓋成長を原動力としてヘルメットの形状に誘導する治療法です。
ヘルメットの中では頭の平らになってしまった部分には空間があるので成長が促進され、ヘルメットが接触している部分では成長を待機してもらいます。ヘルメット治療を行う場合は、かかりつけ医や専門家に相談し、リスクやメリットをよく理解してから決断することが大切です。
向き癖を改善するためには上記のような方法があります。向き癖や頭のゆがみが気になる場合は、一度かかりつけ医や専門家に相談することをお勧めします。
参考:
Steinberg, Jordan P., et al. "Effectiveness of conservative therapy and helmet therapy for positional cranial deformation." Plastic and reconstructive surgery 135.3 (2015): 833-842.
Collett, Brenton R., Gray, Kristen E., and Starr, Jacqueline R. "Factors Predictive of Outcome in Infants with Deformational Plagiocephaly or Brachycephaly." The Journal of Pediatrics, vol. 163, no. 1, (2013):109-113.
Miller, Robert I., Clarren, Sterling K., and Long, Theodore E. "A New Look at Deformational Plagiocephaly: Prevention, Diagnosis, and Treatment." The Journal of Pediatrics, vol. 136, no. 3, (2000):258-262.
Q. タミータイムなどを試しても改善が見られない場合は、どこに相談すれば良いですか?
まずは、かかりつけの医師に相談することがおすすめです。
最近では、頭の形外来を設置している医療機関も増えてきていますので、そこに相談するのも良いでしょう。頭の形外来は形成外科・脳神経外科や小児科などで開設されている、赤ちゃんの頭の形に問題がある場合に専門的に診断や治療を行うための外来です。赤ちゃんの頭は成長期にあり、向き癖や寝方などが原因で頭の形が変形することがあります。これが重度になると、顔の歪みや左右の耳介のずれなどの問題が起こる場合があります。
頭の形外来では、まずは赤ちゃんの頭部の詳しい検査を行い、向き癖や頭の形の変形の原因を特定します。必要に応じて、レントゲンやCTなどの画像検査を行うこともあります。その後、赤ちゃんの月齢や症状に合わせて、理学療法やヘルメット療法などの治療法が提案されます。治療の期間は、症状の程度によって異なりますが、早期の治療が効果的とされています。