公開日 2026/03/25
【医師解説】赤ちゃん(新生児)の向き癖の原因と直し方|放置すると頭はゆがむ?

目次
この記事の監修者

さの赤ちゃんこどもクリニック 院長
佐野 博之 先生
<経歴>
大阪大学医学部卒。大阪大学医学部附属病院入局。りんくう総合医療センター、大阪大学医学部附属病院、大阪母子医療センター、愛染橋病院、淀川キリスト教病院 小児科 主任部長/母子センター長を経て、2020年より現職。
<資格>
日本小児科学会小児科専門医・指導医
日本周産期・新生児医学会周産期(新生児)専門医・指導医
地域総合小児医療認定医、子どもの心の相談医
「うちの子、いつも右ばかり向いて寝てる」「頭の向きを変えようとしても、すぐ戻ってしまう」——そんな悩みを抱えていませんか。
新生児の向き癖は珍しいことではありませんが、放置したときの影響や、いつまでに対処すればよいのかがわからず、不安を感じている保護者の方も多いかと思います。
この記事では、向き癖が起きる原因から、今日から始められる3つの直し方、月齢別の対処目安まで、監修医師の解説をもとにまとめています。
なお、LINE公式アカウント「赤ちゃんの頭の形ガイド」では、向き癖や頭の形の変化、月齢ごとの考え方、医療機関に相談するタイミングなどを発信しています。「うちの子はどうだろう?」と感じたときの参考にご利用ください。
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向き癖とはどんな状態?なぜ起きるのか

向き癖とは、赤ちゃんが横になったときに常に同じ方向へ頭を向けてしまう状態のことです。左右どちらかに固定されると、自然に首の向きが変わりにくくなります。
原因はひとつではなく、胎児期からの姿勢、首の筋肉の発達状況、日常の育児環境など複数の要因が重なって起きることが多いとされています。以下で代表的な3つのケースを解説します。
胎児期・出産時の姿勢が影響するケース
赤ちゃんが子宮内で長時間同じ姿勢をとり続けている場合、その向きの癖が生後も引き継がれることがあります。たとえば、胎内で頭を右に寄せた状態が長く続くと、生まれた後も右を向く習慣がつきやすくなります。
また、吸引分娩や鉗子分娩では頭部に外力が加わるため、出産時の影響が向き癖の一因になる場合もあります。ただし、産前・出生時の影響は相対的に小さく、産後に同じ向きで寝続けることが主な原因になることが多いとされています。
首の筋肉の発達が未熟なケース
赤ちゃんは首の筋肉がまだ十分に発達していないため、特定の向きに頭が傾きやすい状態にあります。首を支える筋肉の左右差が大きい場合、いつも同じ向きにしか頭が向かなくなることがあります。
筋性斜頸(きんせいしゃけい)と呼ばれる、首の胸鎖乳突筋のこわばりが原因となるケースもあります。筋性斜頸は多くの場合1歳半頃までに自然に改善しますが、向き癖が著しい場合や首の動きに明らかな制限がある場合は、早めに医師に相談することが望ましいとされています。
光・音・授乳の方向が固定されているケース
育児環境が向き癖を強めることもあります。ベッドをどちらかの壁側に寄せて置いている場合、部屋の光源や音の出る方向が常に一定の場合、授乳をいつも同じ側でしか行っていない場合などがこれにあたります。
赤ちゃんは光や音、親の声のする方向に自然と顔を向けようとします。そのため、刺激が一方向に偏っている環境では、同じ方向にしか向かない習慣が強化されやすくなります。「右(左)ばかり向く」という場合は、まず周囲の環境を確認してみましょう。
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向き癖を放置するとどうなる?
向き癖の程度が軽く月齢が早ければ、自然に改善していくことも多いとされています。ただし、そのまま放置すると影響が出る可能性があります。
「深刻になる前に動くこと」の意味を知るために、3つの影響を確認しておきましょう。
首の筋肉が偏って発達する可能性
常に同じ方向に頭を向け続けると、その側の首の筋肉ばかりが使われ、逆側の筋肉が発達しにくくなることがあります。
この筋肉の左右差が固定化されると、首の動きに偏りが生じ、長期的には姿勢や運動能力に影響を及ぼす可能性があります。
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頭の形(斜頭症など)に影響する可能性
頭の柔らかい乳児期に同じ向きで長時間過ごすと、向いている側の後頭部が平らになり、左右非対称の頭の形になることがあります。これが斜頭症(しゃとうしょう)と呼ばれる状態です。
重症化すると、耳の位置のずれや顔の非対称につながる場合もあるとされています。向き癖の方向によって、頭の形への影響が出やすい箇所が変わります。
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運動能力への影響と現在のエビデンス
身体に偏りが生じることで、バランス感覚や運動能力に影響を与える可能性があります。
近年、頭のゆがみと運動・神経発達との関連が研究されていますが、現時点では明確な因果関係は証明されていません。大部分のケースでは発達への問題は報告されていないとされていますが、重度の場合は経過観察が推奨されています。

向き癖の直し方|今日から始められる3つの方法
向き癖への対処は、特別な道具がなくても始められます。基本となる3つの方法を具体的に解説します。生後3〜4か月頃までのできるだけ早い時期から取り組むことが、改善の見込みを高めるとされています。
1. 頭の向きを逆にする体位変換
最も基本的な方法は、定期的に赤ちゃんの頭の向きを変えることです。向き癖の方向と反対側に頭が向くよう、以下の工夫を試してみましょう。
ベッドの向きを変える: 向き癖が右であれば、赤ちゃんの頭が左側にくるようにベッドへの寝かせ方を逆にします。部屋の光源や気配のある方向を変えることで、自然に反対側へ顔を向けやすくなります。
おもちゃや声で誘う: 向き癖と反対側におもちゃや鈴を置いたり、声をかけたりすることで、赤ちゃんが自発的に頭を向けるよう促します。
授乳の向きを左右交互に: 授乳のたびに左右の腕を交互に使い、赤ちゃんの頭が向く方向が偏らないようにします。抱っこの向きも同様に工夫できます。
なお、ドーナツ枕などの特殊な枕は科学的根拠が不十分であり、米国FDAも安全性・有効性に関して注意喚起を発出しています。窒息・SIDSのリスク増加の可能性もあるため、推奨されていません。
【医師解説】ドーナツ枕で赤ちゃんの頭のゆがみは予防できる?効果や危険性について
2. タミータイム(うつ伏せ遊び)で首の筋力をつける

タミータイムとは、赤ちゃんが起きている時間に保護者が目を離さずに見守りながら、うつ伏せで過ごさせることです。うつ伏せの姿勢では後頭部に圧力がかからないため、頭の形への負担を減らすことができます。
また、うつ伏せ姿勢は赤ちゃんに頭を持ち上げようとする動きを促し、首・肩まわり・背中の筋肉をバランスよく発達させます。体を支えるバランス感覚の発達にもよい影響があるとされています。
目安は1日合計60分程度ですが、最初は10〜30秒から少しずつ時間を延ばしていくのが無理のない始め方です。
ただし、睡眠時のうつ伏せはSIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクがあるため絶対に行わないでください。必ず赤ちゃんが起きている時間に、大人が目を離さない状況で行います。
【医師解説】タミータイム(うつぶせ遊び)とは?6つの効果と月齢別のやり方、注意点について解説
3. 授乳・声かけの方向を意識的に変える
体位変換と重なりますが、授乳・声かけの方向は毎日繰り返す場面であるため、独立した習慣として意識することが効果的です。授乳時に右腕・左腕を交互に使うことを1回ごとのルーティンにするだけで、頭への圧力の偏りを減らせます。
「右ばかり向く」「左ばかり向く」という場合は、普段テレビや窓が向き癖側にないかを確認してください。赤ちゃんの視野に入るもの・音の出るものを向き癖と反対側に移すことで、環境から働きかけることができます。
向き癖と反対側から声をかけたり、抱っこの向きを変えたりするだけでも日常的なケアになります。
体位変換・タミータイム・授乳方向の調整を試しても改善が見られない場合や、頭の向きが極端に固定されていて心配な場合は、自己判断で様子を見続けるよりも、一度医師に評価してもらうことを検討してみてください。
「ケアが正しくできているか確認したい」という段階での受診も、適切な相談の仕方です。

医師に聞く、診療現場で起きていること
向き癖の相談に訪れる保護者には、どんな悩みのパターンが多いのか。診察ではどんな評価が行われているのか。実際の診療現場の声をもとにご紹介します。
向き癖で来院される保護者に多い悩みのパターン
「このままほっておいて大丈夫なのか」「もっと早く来ればよかったのか」という声は、診療現場でよく聞かれます。また、「体位変換を試しているが全然反対を向いてくれない」「タミータイムを嫌がる」という悩みを持って来院される方も多くいます。
一例として佐野先生(さの赤ちゃんこどもクリニック)のもとには、生後3〜5か月頃に来院される方が増えているそうです。
診察で頭の形と首の動きをどう評価するか
診察では、まず頭部の視診と触診が行われます。視診では後頭部の左右差、頭頂から見たときの形の非対称を確認します。
同時に首の動きに左右差がないかを評価し、向き癖の原因が筋性斜頸などにある場合は別途対応の方針が示されます。
3D撮影ができる施設では、頭部の形を立体的に数値化して把握します。写真だけではわかりにくい左右の差が数値として示されるため、保護者の方にとっても今の状態を客観的に理解しやすくなるとされています。
佐野先生は「現在の発達の状況や斜頭の程度、改善の可能性について、できるだけ正確な情報をお伝えするようにしています」と語っています。診察の結果、治療が必要なケースもあれば、経過観察でよいケースもあります。
治療を促すことが目的ではなく、その家族にとって最適な方針を一緒に考えることが診療の軸とされています。
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来院を悩む保護者に医師が伝えたいこと
「こんなことを聞いてもいいのかな」「大げさかもしれない」——そう思って受診をためらう保護者の方は少なくありません。
佐野先生も「何より大切にしているのは、皆さんに納得して安心して帰っていただくこと。”こんなことで”と躊躇される必要はありません」と、気軽な受診を呼びかけています。
向き癖の相談は「頭の形を治療するかどうか」を決めるためだけのものではありません。自宅でのケア方法を確認したい、今の状態が正常範囲かを知りたい——そのような動機でも相談してよい場所です。
気になる場合は生後3〜4か月を目安に医師へ
向き癖は生後間もない赤ちゃんに多く見られる状態ですが、放置すると頭の形などに影響が出る可能性があり、さらに効果的に対処できる時期にも限りがあります。
生後1〜2か月から体位変換・タミータイム・授乳方向の調整を始めることで、自然改善を促せる可能性があります。生後3〜4か月頃は、ケアの効果が出やすい時期であると同時に、医師に一度評価してもらうことで、自宅ケアを続けてよいのか・別の対応が必要なのかが明確になります。
「気になってはいたが、もっと早く相談すればよかった」という声が診療現場では実際に聞かれます。向き癖が気になる場合は、生後3〜4か月に限らず、気になったタイミングで医師に相談することを検討してみてください。
よくあるご質問(Q&A)
赤ちゃんの向き癖について、保護者からよく寄せられるご質問に回答します。
Q. 向き癖は自然に治りますか?
A. 軽度の向き癖であれば、成長に合わせて自然に改善していくことがあります。ただし、「自然に治る」と一概にいうことはできません。生後4〜8か月頃に重度のゆがみがある場合、約3か月後も約7割が重度のまま残るというデータもあります。
気になる場合は生後3〜4か月頃を目安に医師に相談することが望ましいとされています。
Q. 向き癖の原因は何ですか?
A. 胎児期・出産時の姿勢(子宮内での姿勢、吸引分娩・鉗子分娩の影響)、首の筋肉の発達の未熟さ、そして光・音・授乳の方向が一定に固定されている育児環境の3つが主な原因として考えられています。産後に同じ向きで寝続けることが最も多い原因とされています。
Q. 遺伝が原因になることもありますか?
A. 遺伝的要因が関与する可能性は報告されていますが、遺伝が原因となることはまれとされています。
多くの場合は産後の向き癖など環境要因が大きいとされています。遺伝によるゆがみが疑われる場合は、頭蓋骨縫合早期癒合症などの疾患の可能性もあるため、医療機関を受診することが推奨されます。
参考:Arnold, Laura T., et al. "The genetics of plagiocephaly: a review and introduction of a new hypothesis." Journal of Neurosurgery: Pediatrics, vol. 9, no. 1, (2012):1-8.
Q. タミータイムはいつから始められますか?
A. 生後すぐから始められますが、不安な場合は1か月健診後からスタートするのがおすすめです。最初は10〜30秒程度から始め、少しずつ時間を延ばしていきます。
1日合計60分が目安です。必ず赤ちゃんが起きている時間に保護者が目を離さずに行い、睡眠時のうつ伏せはSIDSのリスクがあるため行わないでください。
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Q. 向き癖をそのままにすると将来どうなりますか?
A. 軽度であれば自然に改善することも多いとされていますが、放置した場合、首の筋肉が偏って発達する可能性、斜頭症など頭の形への影響、長期的には姿勢や運動能力に影響が出る可能性があります。
深刻な場合は早めに対処することが推奨されます。
Q. 直し方を試しても改善しない場合はどうすればいいですか?
A. 体位変換やタミータイムを試しても改善が見られない場合は、かかりつけ医や頭のかたち外来への相談が推奨されます。
生後3か月以降で頭の形に変形が見られる場合は、専門的な評価と、必要に応じた治療方針の提案を受けることができます。





