公開日 2023/04/03
【医師解説】吸引分娩や遺伝は赤ちゃんの頭の形に影響する?

目次
この記事の監修者

さの赤ちゃんこどもクリニック 院長
佐野 博之 先生
Q.吸引分娩で頭の形はゆがみますか?
A.赤ちゃんの頭の形のゆがみの原因は、骨の病気である頭蓋骨縫合早期癒合症による変形と、外からの外力による変形の2つが上げられますが、ほとんどの場合は外力による変形です。遺伝のせいですか?と聞かれるご両親がいらっしゃいます。
ある程度ご両親に似た形になる可能性はありますが、気にされる程の変形が遺伝によるということは、前述の頭蓋骨早期癒合症等の疾患によるものでありかなり稀です。ですので遺伝が原因の場合はかなり稀と言ってよいと思います。今回は外力による変形にしぼってお話します。
外力が加わるタイミングとして大きく産前と産後に分けることができますが、産前の場合、お母さんのお腹の中で赤ちゃんが通常と異なる向きを向くことで骨盤から圧力を受けたり、双子などの多胎妊娠の場合には狭い空間で通常よりも圧力が加わりやすくなります。また、鉗子分娩や吸引分娩の場合にも頭部に圧力が加わり、ゆがむ原因となり得ます。
ただし、これら産前〜出生時の影響はそれほど大きくなく、ほとんどの場合は産後に同じ向きで寝ていることが原因だと言われています。

筋性斜頸等の場合には頭を自由に動かすことができず、同じ向きで寝てしまうことでゆがみが大きくなることがありますが、正常児の場合でも「向き癖」と呼ばれ、同じ方向で寝てしまう赤ちゃんは多く存在します。
こうした特定の方向で長い時間寝ている場合には、頭蓋骨にかかる圧力が偏ってしまうため、頭のゆがみが発生します。左右どちらかを向いている場合には斜頭、真上を向いている場合には短頭(絶壁)になりやすいと考えられています。
逆に言えば、同じ向きで寝ないように向きを変えてあげたり、うつ伏せで運動したりすることで、ゆがみを軽減することができます。(後述のタミータイムもですが、決してうつ伏せ寝を推奨するものではありません)ゆがみが軽度であれば、適切な体勢や運動を継続的に行うことで、多くの場合頭蓋骨の形は改善していきます。
ただし、重度の変形の場合には、こうした対応をしていても改善が難しい場合があります。月齢3ヶ月をすぎてもゆがみが気になるようであれば、一度専門の医療機関を受診するのが良いと思います。ゆがみが中等度以上の場合には、自由診療となりますが、ヘルメット矯正治療という選択肢もあります。
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※吸引分娩とは
吸引分娩は、分娩が進行しない場合や母体・胎児に問題がある場合に、吸引力で赤ちゃんを引き出す方法です。赤ちゃんの頭に柔らかいカップを当てて吸引するため、頭にこぶができたり、頭頂部が尖ったエイリアンのような頭の形になることがあります。母子の安全な出産のために必要な手段ですが、赤ちゃんの頭の形が歪む原因になり得ます。

Q.頭の形がゆがむことはよくあることですか?
A.頭のゆがみの発生頻度については、様々なデータがあり診断基準によっても異なってきますが、例えば2013年にカナダで行われた研究では、生後3ヶ月程度の新生児の場合には約47%1)の割合で頭がゆがんでいると報告があります。
また日本でも、2022年に発表された論文2)の中で、生後3ヶ月で56.8%、6ヶ月でも43.2%の割合で頭の形がゆがんでいると報告されています。ですので、赤ちゃんの頭の形がゆがむことは、比較的頻繁に起こることだと言えます。
一方で、ゆがみが軽度の場合には自然に良くなる場合もありますし、上でお伝えしたように同じ向きで寝ないように向きを変える等の対応をすることで改善していくことが知られています。
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Q.頭の形がゆがむことによって、どのような問題が起こる可能性がありますか?
A.赤ちゃんの頭の形がゆがむことの問題は、主に見た目の問題だと言われており、脳の成長や精神発達には影響がないと言われています。ただし、重度のゆがみの場合には顔の骨の変形や耳の位置のズレおこるため、単なる見た目の問題だけでなく、嚙み合わせ、視力低下、眼鏡がかけにくい等の機能的な問題が起こることもあります。
また「発達に影響はないですか?」という質問もよく受けますが、今のところ明確な関連性は証明されていません。海外では、頭のゆがみによる発達への影響を研究した報告3),4)は複数ありますが、いずれも明確な因果関係を示しているわけではありません。
ただし、重度の頭の形のゆがみは発達遅延等のリスクとなる可能性があるので、しっかりと頭の形を評価し、モニタリングしていく必要があると結論づけています。
Q.ゆがみを予防するために、どのようなことに気をつければよいですか?
A.最初の質問でお伝えしたように、頭の形が変わる主な原因は外からの圧力です。ですので、頭に圧力が加わりづらくなるような以下の工夫をすることで、頭の形がゆがむことを予防することができます。

①定期的に体の向きを変える(体位変換)
ベッドやベビーカーで寝ている方向や、授乳の向き、抱っこの向き等、バランスよく体の方向を変えてあげることで、赤ちゃんの頭の圧力が均等に分散され、頭のゆがみを防ぐことができます。
②うつぶせで遊ばせる時間を取る(タミータイム)
うつぶせで遊ばせることによって、首や背中の筋肉を鍛えると同時に頭の圧力を軽減し、頭形変形の予防に役立ちます。最初は数分だけでも大丈夫なので、少しずつ時間を増やし、1日60分程度を目安に実施すると良いと思います。
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枕の一部にくぼみがあるようなドーナツ枕についてもよく聞かれますが、ドーナツ枕で頭の形のゆがみを予防できるのかはよくわかっていません。
またアメリカのFDA(医薬品や医療機器の安全性・有効性を規制する政府機関)からは、窒息や突然死のリスクがあるため、赤ちゃんの頭の形のゆがみを予防・治療する枕は使用しないでください。と通知がでています。
日本でもこうした枕についての有効性や安全性は検証されていないと思いますので、ドーナツ枕については、十分な注意が必要だと思います。
最後に、こうした予防はもちろん重要なのですが、あわせてゆがみの度合いを知ることも大切です。重度のゆがみの場合、体位変換やタミータイムでは改善しないことが多く、長い間悩まれるご両親もいらっしゃいます。まずは専門の医療機関へ相談し、正しい状態の把握と対策について知って頂くのが一番良いと思います。
実際の現場では何が起きている?吸引分娩後の頭の形の診療判断と相談タイミング
吸引分娩によって赤ちゃんの頭の形にゆがみが生じた場合でも、軽度なゆがみであれば、自然に改善していくことも多いと言われています。
しかし、診療現場では重症度を適切に評価し、必要に応じて早期の対応を行うことで、より良い結果につながることが認められています。
ここでは、実際の診療現場での判断基準や相談タイミング、診察の流れについてご紹介します。
診療現場での判断
診療現場では、頭の形のゆがみに対して治療ありきではなく、一人ひとりのお子様の状態を丁寧に評価することを重視しています。吸引分娩による頭の形の変形でも、軽度なゆがみであれば、体位変換やタミータイムといった理学療法でも自然と改善する可能性があります。
ただし、ゆがみの程度が中等度以上の場合や、生後3か月を過ぎても改善傾向が見られない場合には、3D撮影による客観的な評価を行い、必要に応じてヘルメット治療などの選択肢についてご説明します。重要なのは、ご家族の不安を解消し、現在の状態を正しく理解していただくことです。
「頭のかたちを気にされて来院される方は本当に多く、中には深刻に心配されている方も少なくありません。そういった方々の気持ちに寄り添い、不安を解消することで、より楽しく子育てができるお手伝いができているのではないかと感じています。これは、ヘルメット治療を選択されるかどうかに関わらずですね。」(佐野 博之先生 さの赤ちゃんこどもクリニック)
参照元:「赤ちゃんの頭の形、気になっていませんか?」佐野院長が教える早期相談のメリットと治療の選択肢
相談のタイミング
吸引分娩による頭の形のゆがみが気になる場合、生後3〜4か月頃の受診をお勧めしています。この時期は、頭の骨がまだ柔らかく、体位変換などの予防的ケアでも改善が期待できる一方で、必要に応じてヘルメット治療を開始できる最適な時期でもあります。
実際の診療現場では、月齢によって以下のような対応を行っています。
月齢 | 主な対応方法 | ポイント |
|---|---|---|
生後1〜2か月 | 体位変換・タミータイム指導 | 形の変化が始まりやすい時期 |
生後3〜4か月 | 診察・評価、必要に応じて治療開始 | ゆがみの差が最も出やすい時期 |
生後10〜11か月 | 診察・説明・経過観察 | 形の特徴が落ち着きやすい時期 |
早期に相談いただくことで、治療期間が短くなり、より良い結果が得られることが多くあります。「少し気になる」という段階でも、まずは専門の医療機関を受診し、3D撮影による客観的な評価を受けることが、次のステップへの安心につながります。
「少しでも気になるようであれば、3か月健診と同時くらいに、頭の形を評価するために来ていただければと思います。結果が早くわかることが次のステップと安心への材料になりますから。」(吉澤 穣治先生 池袋なごみクリニック)
参照元:赤ちゃんの頭の形が気になる方へ ー 吉澤先生が教える治療の流れとタイミング
診療の流れ
頭の形の相談ができる医療機関には、小児科、形成外科、脳神経外科などがあります。吸引分娩後の頭の形が気になる場合、まずはこれらの専門医療機関を受診することをお勧めします。
初診時の診療ステップ:
- 問診・診察:吸引分娩であったことや、いつ頃から気になり始めたかなどを詳しくお伺いし、頭蓋骨縫合早期癒合症などの疾患の有無を確認します。
- 3D撮影・計測:3D撮影装置を用いて頭の形を客観的に評価します。撮影結果の解析には30分程度かかる場合があります。
- 結果説明・治療方針の相談:撮影結果をもとに現在の頭の形の状態を説明し、必要に応じて治療方法についてご説明します。軽度の場合は体位変換やタミータイムの指導、中等度以上の場合はヘルメット治療の選択肢についてもお伝えしますが、治療の決定を急ぐ必要はありません。
診療現場では、ご家族が納得して安心して帰っていただけるよう、丁寧な説明を心がけています。どんな些細なことでも気軽に相談できる環境が整っていますので、まずは受診して現在の状態を正しく評価することをお勧めします。
「初診では、大きく分けて3つのステップで診療を行っています。まず、早期癒合症などの疾患の有無や、頭のかたちに明らかな異常がないかを丁寧にチェックします。次に、3D撮影に移ります。最後に、撮影結果について詳しい説明を行います。3Dデータをもとに、現在の頭のかたちの状態や、治療の必要性について具体的にお話しします。」(山田 大先生 天王寺だい脳神経外科)
参照元:早期相談が重要!山田先生が教える頭の形治療の受診タイミングと治療の流れ

頭の形が気になったら、まずは相談を
吸引分娩による頭の形のゆがみは、多くの場合自然に改善していきますが、気になる場合は一人で悩まず、専門の医療機関にご相談ください。
診察を受けることで、現在の状態を正しく理解し、必要な対応について知ることができます。治療ありきではなく、まずは評価を受けて安心することも大切な一歩です。




