公開日 2025/06/20

【医師解説】ヘルメット治療とは?治療の仕組みや費用、治療の危険性について

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日本大学医学部小児科 准教授

長野 伸彦 先生

「うちの子、頭の形が少し歪んでるかも…?」
そんな何気ない気づきが、不安につながる保護者の方は少なくありません。

赤ちゃんの頭はとても柔らかく、向き癖や寝る姿勢の影響を受けやすいため、後頭部が平らになったり、左右で形に違いが出ることは決してめずらしくありません

「このまま様子を見ていて大丈夫?」「病院に行くべきなのかな?」と迷う方も多いのではないでしょうか。

この記事では、赤ちゃんの頭の形がゆがむ理由や、ゆがみを改善するヘルメット治療の効果や安全性について、医師の視点からわかりやすく解説します。

なぜ赤ちゃんの頭の形はゆがんでしまうのか?

赤ちゃんの頭がゆがみの原因は大きく2つの原因に分けることができます。

一つは、外力による変形(位置的頭蓋変形症)です。子宮内・産道を通るときの圧迫や、向き癖などによって同じ部分が圧迫され続けることで頭が平らになり、ゆがみが生じます。

変形は後頭部に多く起こり、後頭部の片側が平らになる斜頭症や後頭部の全体が平らになる短頭症があります。

もう一つの原因は、骨の病気による変形(頭蓋骨縫合早期癒合症)があります。頭の骨が早期にくっついてしまうことで、骨の成長が阻害されて頭のゆがみが発生します。

この場合、赤ちゃんの頭のかたちがゆがむだけでなく、頭蓋が大きく育たないことで脳の成長発達に影響することがあるほか、顔面骨が変形することもあります。

外力による変形(位置的頭蓋変形症)

位置的頭蓋変形症

位置的頭蓋変形症は、出生前後のさまざまな要因によって起こります。特に出生後の向き癖による変形は数多く見受けられます。

赤ちゃんがいつも同じ方向を向いて寝ていると、接地している部分が圧迫により、その成長が妨げられます。一方で、接地していない部分は通常通り成長するため、結果として非対称な頭の形になります。

また、「斜頸」という首の筋肉の異常がある赤ちゃんでは、頭の一を変えることが困難なため、頭のゆがみがより発生しやすくなります。

頭蓋骨縫合早期癒合症などの病気による変形

頭蓋骨縫合早期癒合症

一般的に赤ちゃんの脳は生後半年までに出生時の約2倍に、2歳までには成人の90%にまで成長するといわれています。これに対応するために、頭蓋骨は7つのピースに分かれ、それぞれが縫合線でつながっています。

縫合線が通常より早く癒合すると、頭蓋骨の成長が妨げられ、頭の形にゆがみが生じます。軽度であれば経過観察が可能なケースも多く、頭蓋骨の形や発達に明らかな異常が見られなければ、定期的な検査を通じて様子を見ていきます。

一方で、頭の形に明確な異常がある場合や、脳圧の上昇によって脳への影響が懸念される場合には、手術による治療が検討されます。

知っておきたいヘルメット治療の仕組み

ヘルメット治療の仕組み

まず初めに知っておいていただきたいのは、ヘルメット治療は頭に強い圧をかけて無理に形を変える治療ではないということです。

この治療は、赤ちゃんの頭の自然な成長力を利用して形を整えていく方法です。

頭の平らになってしまった部分に空間をつくり、 赤ちゃん自らの頭の成長を原動力として、平らな部分に成長を促すことで治療効果が得られます。

ヘルメット矯正治療は、頭の出っ張った部分に対して圧力をかけて頭のかたちを矯正するものではありません。

ヘルメット治療の適応について

赤ちゃんの頭のゆがみにはさまざまな原因や程度があり、すべてのケースでヘルメット治療が受けられるわけではありません。

赤ちゃんの頭のゆがみは、頭蓋骨早期縫合癒合症などの病気が原因によるものと、向き癖などの外部の圧力が原因となるものがあります。

主に外部の圧力が原因で変形してしまっていて、かつ変形の程度が中等度以上の場合に適応されます。

ヘルメット治療は、次のような条件を満たしている場合に医師の判断のもとで適用されます:

  • 外力によって生じた変形であること
  • 頭のゆがみが中等度~重度であること
  • 頭の成長が活発な時期(おおむね生後3~6ヶ月頃)であること

頭蓋形状矯正ヘルメットの種類について

現在、日本で医療機器として承認され、医療機関で提供されている頭蓋形状矯正ヘルメットは8種類あります。ベビーバンドスターバンドミシガン頭蓋形状矯正ヘルメットリモベビーアイメットアイメット・ネオクルム、クルムフィットです。

ヘルメットによって、デザイン、素材、費用、製造国が異なります。2000年代は海外製品が多く使用されていましたが、近年は国内メーカーが手がける製品も増えてきています。

医療機関によってどのヘルメットを扱っているかは異なるため、希望するヘルメットがある場合は、事前に取扱医療機関を確認しておくのが良いでしょう。

ヘルメット治療ができる医療機関

治療開始に最適な時期とは?

3か月未満の赤ちゃんや変形が軽度の場合は積極的な体位変換やタミータイムの指導を行い、治療をせずに経過を見ます。

治療を始めるのに最適な時期は生後3か月から6か月頃とされています。生後6か月以降だと、頭の成長スピードが落ちるため、改善効果も緩やかになります。

ヘルメット矯正治療のデメリットや危険性は?

医師の指示のもと適切に治療していれば、大きな危険性はありませんので安心してください。強い締め付けを行う治療ではないため、頭の成長が阻害されることや、脳への圧迫等の影響もありません。副作用としては、肌荒れ汗疹など肌への影響がでることがあります。適度にヘルメットを外して、肌への影響を確認することや、赤みが出た際には、医師の指示のもと適切に対応をおこなえば、特に大きな問題にはなりません。

ヘルメット治療費用や保険適用、医療費控除について

ヘルメット治療は現在、保険適用外(自費診療)のため医療機関や導入している頭蓋形状矯正ヘルメットによって異なります。治療総額(診察費やヘルメット費用等)で、約30万円~60万円の幅があります。

ベビーバンドを取り扱っている医療機関では、30万円代で提供されていることが多いです。

また、ヘルメット矯正治療は、医師が常に介在する治療システムの場合であれば、医療費控除の対象になります。

ただし、最終的に申請内容が認められるかどうかは各税務署の判断となります。

ヘルメット治療の流れや治療期間について

ヘルメット矯正治療は概ね次のような流れになります。

ヘルメット治療を行っている医療機関を受診

ヘルメット矯正治療はどこの病院でも実施しているわけではありませんので、まずは医療機関を探します。

メーカーのサイトにヘルメット治療ができる医療機関の一覧が掲載されているので、お近くの医療機関を探しましょう。

ゆがみの原因や頭のゆがみの重症度を診断

ゆがみの原因が病的か外力かを診断します。病的な疑いがある場合は、専門病院で精密検査を行う必要があります。

医療機関によって異なりますが、レントゲン・CT撮影などを行う場合があります。

外力が原因の場合は、医師が視診・触診・問診各種計測などで頭のゆがみ度合いをみて、ヘルメット矯正治療の適用範囲かどうかを診断します。

赤ちゃんの頭の形測定

ヘルメット治療の実施を決定

ヘルメット矯正治療の適用範囲にある場合は、ヘルメット矯正治療の詳しい説明を行います。

ゆがみがあるからといって、ヘルメット矯正治療は必ず受けなければならない治療ではありませんので、ご両親の自由意志によって、治療をするかどうかを決定します。

3D撮影とヘルメットの作成

ヘルメットを作成するために、頭部形状を測定するために3D撮影を行います。

ベビーバンドの場合は約1〜1.5週間後から着用開始できます。

ヘルメットの装着(治療開始)

医療機関にてヘルメットを装着し、使用方法や注意点等の説明を受けます。ヘルメットは、入浴や休憩時間以外の1日23時間程度を目標に装着します。

治療開始の月齢や重症度、治療の進み具合によって異なりますが2~6か月間装着します。

経過観察

治療開始後は、 約1か月毎に医療機関へ通院し、治療効果やあせもなど肌トラブルが起きていないかなどを医師がチェックします。

治療効果を出すには、装着時間が大事なため、専用のアプリを用いて装着時間を記録します。

卒業(治療終了)

ベビーバンドでは、平均して3~4か月程度で治療終了となります。頭の形外来では、まずは赤ちゃんの頭部の詳しい検査を行い、向き癖や頭の形の変形の原因を特定します。

必要に応じて、レントゲンやCTなどの画像検査を行うこともあります。その後、赤ちゃんの月齢や症状に合わせて、理学療法やヘルメット療法などの治療法が提案されます。

治療の期間は、症状の程度によって異なりますが、早期の治療が効果的とされています。

国内多施設研究でわかったヘルメット治療の有用性について

赤ちゃんの頭の形のゆがみ(体位性斜頭症)は、軽いものであれば成長とともに自然に改善することもあります。

しかし、ゆがみが中程度から重度の場合には、医師による評価や治療が必要になることもあります。

最近では、寝かせ方や生活スタイルの変化により、赤ちゃんの頭の形を心配する保護者の方が増えており、正しい情報と判断材料が求められています

今回ご紹介するのは、国内の複数の医療機関で行われたヘルメット治療に関する臨床研究です。実際の医療現場で収集されたデータに基づき、

治療の効果やタイミング、安全性などを明らかにしたものであり、今後の適切なケアを考えるうえで貴重な知見となることが期待されます。

調査概要

  • 対象者:中等度~最重度の斜頭症のある正期産児224名
  • 実施期間:2023年7月15日〜2024年5月31日
  • 実施施設:日本大学板橋病院、板橋セントラルクリニック、土屋小児病院、小張総合病院、飯野病院 など複数機関
  • 評価方法:治療前後の頭の形状を3Dスキャンで計測し、頭蓋非対称性指標(CVAI)をもとに効果を判定

主な結果の要点

  • 全ての重症度群で頭の形のゆがみ(CVAI※)の改善を確認した(最重症で約9% 、重症で約7%、中等症で約4%改善した)。
  • 月齢7か月以降よりも7か月未満のほうが、CVAIの改善が大きいが、治療を開始生後7か月以降に治療を開始しても一定の効果が得られ(CVAIで約4%改善した)。
  • 医療機関や医師による治療効果の差はほとんど見られなかった。
  • 治療による頭囲(頭の大きさ)の成長抑制は認められなかった
  • 患者の2.2%に皮膚の赤みが見られたが、いずれの症例でも、適切な対応で赤みは改善した。

※CVAI:Cranial Vault Asymmetry Indexは頭の左右対称度合いを表す指標

論文概要

▪️論文タイトル

Therapeutic Effectiveness of a Novel Cranial Remolding Helmet (baby band2) for Positional Plagiocephaly: A Multicenter Clinical Observational Study

▪️掲載誌

Journal of Clinical Medicine(2024年10月7日掲載)

▪️DOI

▪️研究機関

  • 日本大学医学部附属板橋病院
  • 春日部市立医療センター
  • 飯野病院
  • 小張総合病院(現:野田総合病院)
  • 土屋小児病院

▪️研究期間
2023年7月~2024年5月

▪️対象
CVAIが中等症から最重症の体位性斜頭症を持つ正期産の乳児224名。

▪️研究方法

  • 3Dスキャナーによる頭蓋形状の計測
  • CVAIを治療前後で評価

▪️本研究で使用した医療機器について:

販売名:ベビーバンド2

一般的名称:頭蓋形状矯正ヘルメット

医療機器承認番号:30400BZX00252000

ヘルメット治療に関するよくある質問

赤ちゃんの頭の形やヘルメット治療について、不安や疑問をお持ちの保護者の方は少なくありません。
ここでは、よくある質問を通じて、治療を検討する際に知っておきたいポイントをご紹介します。

Q. ヘルメット治療は本当に安全なのでしょうか?

A. はい。ヘルメット治療は、1998年にアメリカで医療機器として認可されて以来、長年にわたり使用されてきました。
日本でも2018年に厚生労働省の医療機器承認を取得しており、有効性と安全性が科学的に裏づけられている治療法です。
圧迫による成長阻害や発達への悪影響などは報告されていません。

Q. ヘルメット治療以外に他の治療法はありますか?

A. あります。特に生後3ヶ月未満の赤ちゃんには、体位変換やタミータイムといった理学療法的アプローチが有効です。
寝る姿勢や抱っこ・授乳の向きに注意し、頭にかかる圧を分散することで、自然な形状の回復を促します。

Q. 費用はどれくらいかかりますか?

A. 医療機関によって異なりますが、診察料や検査費用を含めて約30〜60万円が目安です。
詳細は、治療を希望する医療機関に直接ご確認ください。

Q. ヘルメット治療は必ず受ける必要がありますか?

A. いいえ。ヘルメット治療は必須ではありません。

医療機関を受診した結果、ゆがみの程度が軽度であった場合や、生後3ヶ月未満の早い時期であれば、体位の工夫(向きぐせ対策やタミータイムなど)だけで十分に改善が見込めるケースもあります。

また、治療の対象とされる程度のゆがみがあった場合でも、必ずヘルメット治療を行わなければならないわけではありません。赤ちゃんの成長の様子やご家庭の意向もふまえて、医師と相談しながら判断することが大切です。

赤ちゃんの頭の形に不安がある場合は、まず医療機関に相談を

赤ちゃんの頭のかたちは、成長とともに変化していくものですが、すべてのケースで自然に改善していくとは限りません。

特に、目に見えて左右差や平らな部分がはっきりしている場合や、生後4ヶ月以降になっても改善が見られない場合には、「様子を見る」のではなく、医療機関で評価を受けることが大切です。

治療の必要があるかどうかにかかわらず、「もっと早く相談しておけばよかった」と後悔しないためにも、気になることがあれば早めに医療機関にご相談ください。

参考:

Martiniuk, Alexandra LC, et al. "Plagiocephaly and developmental delay: a systematic review." Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics 38.1 (2017): 67-78.

Laughlin, James, et al. "Prevention and management of positional skull deformities in infants." Pediatrics 128.6 (2011): 1236-1241.

Wen, Juan, et al. "Effect of helmet therapy in the treatment of positional head deformity." Journal of Paediatrics and Child Health 56.5 (2020): 735-741.

ヘルメット治療 シナぷしゅ