【医師解説】ヘルメット治療とは?治療の仕組みや費用、治療の流れについて詳しく聞いてみました。

目次
解説頂いた先生

日本大学医学部小児科 准教授
長野 伸彦 先生
資格
医学博士。日本小児科学会専門医、指導医。日本周産期・新生児医学会周産期(新生児)専門医、指導医。臨床研修指導医。
日本大学医学部医学科卒。
日本大学医学部附属板橋病院にて初期臨床研修。
日本大学医学部小児科学系小児科学分野入局。日本大学医学部附属板橋病院、駿河台日本大学病院にて後期臨床研修、都立墨東病院、国立甲府病院、埼玉医科大学総合医療センターなどを経て、現在、日本大学医学部附属板橋病院にて勤務。
Q. ヘルメット治療はどのような仕組みで治療効果が得られるでしょうか。
向き癖などによる位置的頭蓋変形といった頭のかたちが変形した赤ちゃんに対して、頭蓋形状矯正ヘルメットを装着することで頭のかたちを改善する治療法です。頭の平らになってしまった部分に空間をつくり、 赤ちゃん自らの頭の成長を原動力として、平らな部分に成長を促すことで治療効果が得られます。
ヘルメット治療は、頭の出っ張った部分に対して圧力をかけて頭のかたちを矯正するものではありません。
Q. ヘルメット治療は誰でも受けられますか?
赤ちゃんの頭のゆがみの原因やゆがみの程度によります。どんな赤ちゃんでも受けられるものではありません。赤ちゃんの頭のゆがみは、頭蓋骨早期縫合癒合症などの病気が原因によるものと、向き癖などの外部の圧力が原因となるものがあります。主に外部の圧力が原因で変形してしまっていて、かつ変形の程度が中等度以上の場合に適応されます。
Q. 頭蓋形状矯正ヘルメットにはどんな種類がありますか?
現在、日本で医療機器として承認され、医療機関で提供されている頭蓋形状矯正ヘルメットは6種類あります。ベビーバンド、スターバンド、ミシガン頭蓋形状矯正ヘルメット、リモベビー、アイメット、クルムです。ヘルメットによって、デザイン、素材、費用、製造国が異なります。2000年代は海外メーカーからの輸入品を使用していましたが、近年は国内メーカーが製造する製品が増えてきています。
医療機関によってどのヘルメットを扱っているかは異なるため、希望するヘルメットがある場合は、取扱医療機関に確認する必要があります。
Q. いつから治療を始めるのが良いのでしょうか。
3か月未満の赤ちゃんや変形が軽度の場合は積極的な体位変換やタミータイムの指導を行い、治療をせずに経過を見ます。
治療を始めるのに最適な時期は生後3か月から6か月頃とされています。生後6か月以降だと、頭の成長スピードが落ちるため、改善効果も緩やかになります。
Q. ヘルメット治療は本当に安全でしょうか?危険性や副作用はありますか?
医師の指示のもと適切に治療していれば、大きな危険性はありませんので安心してください。強い締め付けを行う治療ではないため、頭の成長が阻害されることや、脳への圧迫等の影響もありません。
副作用としては、肌荒れ、汗疹など肌への影響がでることがあります。適度にヘルメットを外して、肌への影響を確認することや、赤みが出た際には、医師の指示のもと適切に対応をおこなえば、特に大きな問題にはなりません。
Q. 治療費用や保険適用について教えてください。
自費診療のため、治療費用は医療機関や導入している頭蓋形状矯正ヘルメットによって異なります。
治療総額(診察費やヘルメット費用等)で、約30万円~60万円の幅があります。ベビーバンドを取り扱っている医療機関では、30万円代で提供されていることが多いです。
Q. 治療の流れや治療期間に関して教えてください。
ヘルメット治療は概ね次のような流れになります。
ヘルメット治療を行っている医療機関を受診
ヘルメット治療はどこの病院でも実施しているわけではありませんので、まずは医療機関を探します。メーカーのサイトにヘルメット治療ができる医療機関の一覧が掲載されているので、お近くの医療機関を探しましょう。
ゆがみの原因や頭のゆがみの重症度を診断
ゆがみの原因が病的か外力かを診断します。病的な疑いがある場合は、専門病院で精密検査を行う必要があります。医療機関によって異なりますが、レントゲン・CT撮影などを行う場合があります。
外力が原因の場合は、医師が視診・触診・問診各種計測などで頭のゆがみ度合いをみて、ヘルメット治療の適用範囲かどうかを診断します。
▶︎赤ちゃんの頭のゆがみの測定方法、短頭症・斜頭症の重症度診断の解説はこちら
ヘルメット治療の実施を決定
ヘルメット治療の適用範囲にある場合は、ヘルメット治療の詳しい説明を行います。ゆがみがあるからといって、ヘルメット治療は必ず受けなければならない治療ではありませんので、ご両親の自由意志によって、治療をするかどうかを決定します。
3D撮影とヘルメットの作成
ヘルメットを作成するために、頭部形状を測定するために3D撮影を行います。約2週間で、オーダーメイドのヘルメットが完成します。
ヘルメットの装着(治療開始)
医療機関にてヘルメットを装着し、使用方法や注意点等の説明を受けます。ヘルメットは、入浴や休憩時間以外の1日23時間程度を目標に装着します。治療開始の月齢や重症度、治療の進み具合によって異なりますが2~6か月間装着します。
経過観察
治療開始後は、 約1か月毎に医療機関へ通院し、治療効果やあせもなど肌トラブルが起きていないかなどを医師がチェックします。治療効果を出すには、装着時間が大事なため、専用のアプリを用いて装着時間を記録します。
卒業(治療終了)
ベビーバンドでは、平均して3~4か月程度で治療終了となります。
頭の形外来では、まずは赤ちゃんの頭部の詳しい検査を行い、向き癖や頭の形の変形の原因を特定します。必要に応じて、レントゲンやCTなどの画像検査を行うこともあります。その後、赤ちゃんの月齢や症状に合わせて、理学療法やヘルメット療法などの治療法が提案されます。治療の期間は、症状の程度によって異なりますが、早期の治療が効果的とされています。
参考:
Martiniuk, Alexandra LC, et al. "Plagiocephaly and developmental delay: a systematic review." Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics 38.1 (2017): 67-78.
Laughlin, James, et al. "Prevention and management of positional skull deformities in infants." Pediatrics 128.6 (2011): 1236-1241.
Wen, Juan, et al. "Effect of helmet therapy in the treatment of positional head deformity." Journal of Paediatrics and Child Health 56.5 (2020): 735-741.