公開日 2025/06/25
【医師解説】帝王切開の気になるを解説!術後の痛みや傷跡、入院期間はどうなる?

目次

久保田産婦人科病院
西野 枝里菜 先生
帝王切開は赤ちゃんを迎えるための大切な出産方法のひとつです。「術後の痛みはどれくらい続くの?」「傷跡はどうなるの?」「回復期間はどのくらい?」など、不安や疑問を抱えているママも多いのではないでしょうか。この記事では、帝王切開を控えている妊婦さんや、すでに帝王切開を経験したママに向けて、術後の痛みや回復過程、日常生活への影響など、気になるポイントを産婦人科医の視点から詳しく解説します。正しい知識を得て、安心して出産・育児に臨みましょう。
帝王切開とは?
帝王切開は、お腹と子宮を切開して赤ちゃんを取り出す手術による出産方法です。日本では全出産の約25%が帝王切開で行われており、決して珍しいものではありません。
帝王切開には予定帝王切開と緊急帝王切開があります。予定帝王切開は事前に日程が決まっているもので、逆子や前置胎盤、過去の帝王切開経験などが主な理由です。一方、緊急帝王切開は分娩中に母体や胎児に危険が生じた場合に行われます。
帝王切開の手術自体は通常30分から1時間程度で終わります。局所麻酔または全身麻酔を用いるため、手術中の痛みはほとんど感じません。赤ちゃんは手術開始から約10分程度で出てくることが多いです。

帝王切開後の痛みはどのくらい続く?
帝王切開後の痛みには、主に「傷の痛み」と「子宮収縮による痛み(後陣痛)」の2種類があります。多くのママが気になるのは、この痛みがいつまで続くのかということでしょう。
術後の傷の痛み
手術直後から約3日間は傷の痛みが最も強い時期です。腹部の傷は約10〜15cmの切開であり、皮膚だけでなく筋肉や子宮も切開されているため、痛みを感じるのは自然なことです。
術後3〜5日目頃からは徐々に痛みが和らいできますが、咳やくしゃみ、笑ったときなど腹部に力が入る動作では痛みを感じることがあります。
術後1〜2週間経つと、日常生活での痛みはかなり軽減しますが、重いものを持ち上げたり無理な姿勢をとったりすると痛みが出ることがあります。完全に痛みがなくなるまでには個人差がありますが、多くの場合1〜2ヶ月かかると考えておくとよいでしょう。
子宮収縮による痛み
帝王切開でも経腟分娩と同様に、出産後は子宮が元の大きさに戻るための収縮が起こります。この収縮に伴う痛みを「後陣痛」と呼びます。
後陣痛は産後数日間続くことが一般的で、特に授乳中に強く感じることがあります。これは授乳によりオキシトシンというホルモンが分泌され、子宮収縮が促されるためです。
初産婦よりも経産婦の方が後陣痛を強く感じる傾向があります。これは経産婦の方が子宮の筋肉が伸びやすくなっており、元に戻るための収縮が強いためです。
帝王切開後の痛みを和らげるには?
術後の痛みに対しては、医師から処方される鎮痛剤を適切に使用することが大切です。「我慢すべき」と思わず、痛みがつらいときは遠慮なく医師に相談しましょう。
また、傷口を温めることで痛みが和らぐこともあります。温かいタオルを介して傷に当てるのも効果的です。ただし、術後すぐは医師の許可を得てから行いましょう。
正しい姿勢を保つことも痛みの軽減に役立ちます。横になるときは枕などで体を支え、傷に負担がかからない姿勢をとるよう工夫しましょう。立ち上がるときも、まず横向きになってから徐々に起き上がると痛みを軽減できます。
帝王切開の傷跡はどうなる?
帝王切開の傷跡は、多くの女性が気にするポイントです。傷跡の治り方や最終的な見た目について理解しておきましょう。
傷跡の種類と位置
帝王切開の切開方法には主に「横切開(ビキニライン切開)」と「縦切開」の2種類があります。現在は横切開が一般的で、下腹部の恥骨の2〜3cm上、いわゆるビキニラインに沿って10〜15cm程度の切開が行われます。
横切開は見た目が目立ちにくく、傷の治りも比較的早いというメリットがあります。下着や水着を着用した際に隠れやすい位置にあるため、多くの女性に好まれています。
縦切開はへそから恥骨にかけて縦に切開する方法で、緊急性が高い場合や特別な事情がある場合に選択されることがあります。
傷跡の治癒過程
術後しばらくは傷跡が赤みを帯びて目立ちますが、これは正常な治癒過程です。時間の経過とともに徐々に色が薄くなっていきます。
術後1ヶ月頃:まだ赤みがあり、やや固く盛り上がっている状態です。
術後3ヶ月頃:赤みが薄れ、ピンク色に変化してきます。
術後6ヶ月〜1年:さらに色が薄くなり、細い線状の跡になることが多いです。
完全に傷跡が落ち着くまでには約1年かかると考えておくとよいでしょう。ただし、個人の体質や年齢、ケアの方法によって治り方には差があります。
傷跡はどうケアする?
傷跡のケアは医師の指示に従って行うことが基本です。一般的には以下のようなケアが効果的です。
清潔に保つ:傷口が完全に閉じるまでは医師の指示に従って清潔に保ちましょう。シャワーや入浴が許可されたら、優しく洗い、しっかり乾かします。
保湿:傷が完全に閉じた後は、医師に確認の上、傷跡専用のクリームやオイルで保湿することで、柔らかく目立ちにくい傷跡になることがあります。
傷の保護:傷跡を目立たなくするには、皮膚を伸ばさないことが大切です。市販のテープを利用して、傷を保護しましょう。
マッサージ:医師の許可が出たら、傷跡を優しくマッサージすることで、硬くなるのを防ぎ、血行を促進する効果が期待できます。

帝王切開後の入院期間と回復プロセス
帝王切開後の入院期間や回復のプロセスを知ることで、心の準備ができ、安心して過ごせるようになります。
一般的な入院期間
帝王切開後の入院期間は、母子の状態や病院の方針によって異なりますが、一般的には約7日程度です。これは経腟分娩の3〜5日と比べると長めです。
術後の経過が順調であれば、術後5〜6日目頃から退院の準備が始まります。ただし、合併症や赤ちゃんの状態によっては入院期間が延長されることもあります。
近年では早期退院の傾向もあり、術後の回復が良好であれば5〜6日程度で退院できる場合もあります。退院時期については医師と相談して決めるのがよいでしょう。
術後の回復プロセス
帝王切開後の回復は段階的に進みます。一般的な回復プロセスは以下の通りです。
術後数時間〜1日目:麻酔の効果が切れるにつれて痛みを感じ始めます。この時期は安静にし、医療スタッフのサポートを受けながら少しずつ体を動かし始めます。早期からのわずかな活動は血栓予防にも効果的です。
術後1〜3日目:少しずつ歩行距離を伸ばし、トイレなどの基本的な動作が自分でできるようになります。食事も徐々に通常に戻ります。この時期は傷の痛みがピークに達することが多いです。
術後4〜7日目:日常的な動作がほぼ可能になり、自分で赤ちゃんのお世話もできるようになってきます。抜糸や抜鈎(ステープラー除去)が行われることもあります。
術後1〜2週間:家庭での生活に戻りますが、重いものを持ったり、無理な姿勢をとったりすることは避け、徐々に活動量を増やしていきます。
術後4〜6週間:健診で問題がなければ、通常の活動や軽い運動、性生活などが許可されることが多いです。
回復を早める5つのポイント
帝王切開からの回復をスムーズにするためのポイントをご紹介します。
①適切な休息:十分な睡眠と休息は回復の基本です。赤ちゃんが寝ているときに一緒に休むなど、こまめに休息をとりましょう。
②バランスの良い食事:タンパク質やビタミン、ミネラルが豊富な食事は傷の治りを促進します。特に鉄分は出血による貧血を防ぐために重要です。
③適度な活動:医師の許可を得た上で、徐々に活動量を増やしていきましょう。長時間同じ姿勢でいることを避け、軽い歩行などから始めるとよいでしょう。
④水分摂取:十分な水分摂取は便秘予防や全身の回復に役立ちます。特に授乳中は水分補給が重要です。
⑤サポートを受ける:無理をせず、家族や友人のサポートを積極的に受け入れましょう。特に重いものを持つ動作や赤ちゃんの抱っこなど、腹部に負担がかかる動作は手伝ってもらうことで回復が早まります。
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帝王切開後の生活で注意すべきポイントを解説
帝王切開後の生活では、いくつか注意すべき点があります。適切なケアと生活の工夫で、スムーズな回復を目指しましょう。

帝王切開後に傷を守りながら回復するには?
帝王切開後は、腹部の傷を保護し、回復を促進するために、いくつかの制限があります。主な制限事項と工夫を紹介します。
重いものを持たない:術後約6週間は赤ちゃん以外の重いものを持つことは避けましょう。買い物袋や洗濯物なども、できるだけ他の人に手伝ってもらいましょう。
適切な姿勢:傷に負担がかからないよう、姿勢に気をつけましょう。特に立ち上がるときは、まず横向きになり、手で支えながらゆっくり起き上がると痛みが軽減します。
階段の昇り降り:術後しばらくは階段の昇り降りを最小限にし、行う場合もゆっくりと慎重に行いましょう。可能であれば、生活スペースを一階に集中させると便利です。
運転:術後約4〜6週間は車の運転を控えることが推奨されています。これは急ブレーキなどの際に腹部に力がかかり、傷に負担がかかるためです。
育児と授乳を安全に行う工夫
帝王切開後も赤ちゃんのお世話は続きます。傷を保護しながら育児を行うための工夫をご紹介します。
授乳姿勢:横向きに寝た状態での授乳や、クッションを使って赤ちゃんを支える「フットボール抱き」という抱き方は、傷に直接赤ちゃんの体重がかからないのでおすすめです。
赤ちゃんの抱っこ:抱っこするときは、腹部の傷に直接圧力がかからないよう工夫しましょう。抱っこ紐を使う場合は、医師に相談してから使用してください。
オムツ交換:オムツ交換台が高すぎると腹部に負担がかかります。低めの位置で行うか、座って膝の上で行うなどの工夫をしましょう。
上の子のケア:上の子がいる場合、抱っこを求められることがありますが、術後しばらくは避け、膝の上に座ってもらうなどの代替方法を見つけましょう。
体調管理と医師への相談
帝王切開は大きな手術です。回復過程での体調管理と、適切な時期に医師に相談することが大切です。
定期検診:退院後も指定された時期に必ず検診を受けましょう。傷の回復状況や全身状態のチェックが行われます。
異常サインの把握:傷の赤み、腫れ、熱感、膿、出血の増加、38度以上の発熱、強い痛みなどがある場合は、感染などの可能性があるため、すぐに医師に相談しましょう。
精神面のケア:帝王切開後は「マタニティブルー」や「産後うつ」のリスクもあります。気分の落ち込みが続く、赤ちゃんへの関心が持てないなどの症状がある場合は、早めに相談しましょう。
運動や性生活の再開:運動や性生活を再開する時期については、個人差があります。必ず医師に確認してから始めるようにしましょう。一般的には術後4〜6週間経過後、健診で問題がなければ許可されることが多いです。
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帝王切開に関するよくある質問と回答
帝王切開について、多くのママから寄せられる質問に産婦人科医の立場からお答えします。不安や疑問を解消して、安心して出産・育児に臨みましょう。
Q.逆子や前置胎盤以外にも帝王切開になるケースはありますか?
A.はい、逆子や前置胎盤以外にも帝王切開が必要になるケースは多くあります。主なものとしては、胎児機能不全(赤ちゃんの状態が悪くなる場合)、分娩停止(陣痛が来ても出産が進まない場合)、既往帝王切開(前回帝王切開で出産している場合)、多胎妊娠(双子など)、母体の合併症(妊娠高血圧症候群や糖尿病など)があります。
また、赤ちゃんが大きすぎる場合(巨大児)、臍帯脱出(へその緒が先に出てしまう)、胎盤早期剥離(胎盤が早く剥がれてしまう)などの緊急事態でも帝王切開が選択されます。産道の狭さや骨盤の形状など、母体の解剖学的な理由で経腟分娩が難しいと判断されるケースもあります。
帝王切開は母子の安全を第一に考えて選択される大切な出産方法です。医師から帝王切開を勧められた場合は、その理由をしっかり聞いて理解することが大切です。
Q.一度帝王切開すると次も帝王切開になりますか?
A.必ずしもそうとは限りません。以前は「一度帝王切開を経験したら、次の出産も帝王切開」という考え方が一般的でしたが、現在では条件が整えば経腟分娩を試みることも可能とされています。これをTOLAC(Trial of Labor After Cesarean section:帝王切開後の経腟分娩の試み)と呼びます。
TOLACが検討できる条件としては、前回の帝王切開の理由が次の出産では当てはまらない場合(例:前回が逆子だったが今回は正常な向き)、子宮の切開方法が低い横切開だった場合、前回の手術から十分な期間(通常12ヶ月以上)が経過している場合、妊娠経過に問題がない場合などが挙げられます。
ただし、TOLACには子宮破裂のリスク(約0.5%)があることも事実です。最終的には、個々の状況、病院の方針、医師の経験などを総合的に判断して決定されます。次の出産について考える際は、産婦人科医とよく相談することをおすすめします。
Q.産後の生活で制限されることはありますか?
A.帝王切開後の産後生活では、傷の回復を促進し合併症を防ぐために、いくつかの制限があります。まず、術後約6週間は重いものを持ち上げることを避けるべきです。目安としては赤ちゃん以外の重量物(約3〜5kg以上)を持たないようにしましょう。
また、術後4〜6週間程度は激しい運動や腹筋運動、性生活も控えることが推奨されています。入浴については、傷が完全に閉じるまで(通常2週間程度)は湯船につからず、シャワーのみにするほうが良いでしょう。
車の運転も術後4〜6週間は避けた方が良いとされています。これは急ブレーキの際に腹部に力がかかり、傷に負担がかかるためです。掃除機の使用や重い洗濯物を干すなど、腹圧がかかる家事も控えた方が良いでしょう。
これらの制限は個人の回復状況によって異なるため、必ず担当医の指示に従いましょう。術後の健診で回復状態を確認しながら、徐々に通常の生活に戻していくことが大切です。
帝王切開後の不安を解消し快適な回復期間を過ごそう
帝王切開は、母子の安全を守るための重要な出産方法です。術後の痛みは個人差がありますが、多くの場合、傷の痛みは3日目がピークで、その後徐々に和らいでいきます。完全に痛みがなくなるまでには1〜2ヶ月程度かかることが一般的です。
傷跡については、現在一般的な横切開(ビキニライン切開)であれば、時間の経過とともに薄くなり、1年程度で細い線状の跡になることが多いです。適切なケアを行うことで、より目立ちにくい傷跡になる可能性があります。
入院期間は約7日程度で、退院後も約6週間は重いものを持つことや激しい運動を避けるなど、いくつかの制限があります。ただし、回復のスピードには個人差があるため、無理をせず、医師の指示に従いながら徐々に通常の生活に戻ることが大切です。
帝王切開を経験するママが心配する必要はありません。適切な医療とケア、そして周囲のサポートがあれば、スムーズな回復と育児が可能です。不安なことがあれば、遠慮なく医師に相談しましょう。あなたと赤ちゃんの健やかな日々を心から応援しています。
