公開日 2023/03/20

【医師解説】斜頭症や短頭症などの重症度(レベル)を診断する方法とは?

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この記事の監修者

さの赤ちゃんこどもクリニック 院長

佐野 博之 先生

Q.赤ちゃんの頭の形のゆがみはどのように測定するのですか?

A.頭の頭囲はよく測定すると思いますが、ゆがみ度合いというのはあまり馴染みがないかもしれませんね。赤ちゃんの頭の形の測定方法は主に3つの方法があります。

1. 目視による視覚的評価

お子さんの頭を前、後ろ、上、横から臨床的に検査し、頭蓋骨の変形度合いを評価する方法です。複雑な検査を行うことなく、見た目からゆがみの重症度を判断することができます。後ほど説明しますが、こうした目視による評価にはArgenta分類1)とよばれる分類が広く使われています。 

2. 人体測定用ノギスによる計測

頭部を測定できる専用のノギスを用いて、前後幅、左右幅、斜め距離および頭囲を測定する方法です。計測に多少の誤差はありますが、簡単に数値を出して定量的に評価することができます。

3. 3Dスキャンによる計測

3Dスキャナーを使って、頭部の3Dデータを取得して、ゆがみ度合いを計測する方法です。他の2つの方法と比較して、より正確に数値を出すことができますが、3Dスキャナーも持っている医療機関でないと測定が難しく、手間もかかります。

どの方法が良いというわけではなくて、医師は複数の方法を組み合わせて、赤ちゃんの頭のゆがみを総合的に判断しています。また頭のゆがみは、外から力が加わって変形している場合が多いですが、まれに骨の病気である頭蓋骨縫合早期癒合症によって起こっているケースがあります。

頭蓋骨縫合早期癒合症の疑いがある場合は、上記の計測とは別にレントゲンやCT等の撮影を行う場合があります。

頭の形測定会

Q.斜頭症や短頭症などの重症度はどのように判断するのですか?

A.重症度の分類方法はいくつかあるのですが、上でお話したように、見た目で重症度を判断するArgenta分類というものがあります。斜頭(左右非対称の形)、短頭(いわゆる絶壁)により異なりますが、簡単に説明するとタイプ別に以下のような定義になっています。

■斜頭の分類

  • タイプ1:片側の後頭部が平らになる
  • タイプ2:平らになった側の耳の位置が前方にずれる
  • タイプ3:平になった側の前頭部が前方に突出し、前頭部が左右非対称になる
  • タイプ4:平になった側の顔の頬骨に変形が前方に突出する
  • タイプ5:後頭部が垂直になり、左右方向に頭が拡大

    斜頭症分類
    斜頭症分類

短頭の分類

  • タイプ1:後頭部中心部が平らになる
  • タイプ2:後頭部の平らな部分が左右方向に拡大
  • タイプ3:後頭部の平らな部分が頭頂方向に拡大、左右方向にもさらに拡大
    短頭症分類
短頭症分類

ノギスや3Dスキャンによって定量的な測定を行う場合、斜頭はCA・CVAI短頭はCIと呼ばれ得る指標によって重症度を分類します。

CA(cranial asymmetry)、CVAI(Cranial Vault Asymmetry Index)は頭の左右対称度合いを表す指標で、以下のように頭の中心線から30度傾けた対角線A, Bの長さを用いて計算されます。CAは対角線の長さの差、CVAIは長さを比率に直した数値になります。

  • CA (mm) = 対角線B ー対角線A (Bの方が長い)
  • CVAI (%)  = (対角線 B-対角線 A)/ 対角線 A × 100

CI(Cephalic Index)は頭の短頭度合いを表す指標で、頭の横幅、前後幅を用いて以下のように計算されます。

  • CI(%) = 横幅 / 前後幅 × 100

これらの数値を用いて重症度の分類を行いますが、世界的に統一された基準というのはまだなく、測定方法や人種によっても異なってくると言われています。Berry社が提供しているベビーバンドの添付文書では、以下のように分類されています。

重症度分類

繰り返しになりますが、ゆがみ度合いはこうした数値だけでなく、視覚的評価等を含めて総合的に判断することになります。頭部の形状によっては、数値上は軽症でも重度と診断される場合もあります。

Q.頭のゆがみはどこで測定できるのですか?

A.一般の方が家庭で頭のゆがみを正確に測定することは困難です。 そのため、正確な頭のゆがみの程度を知りたい場合は、専門の医療機関を受診することをおすすめします。

数値だけでなく、最初に述べたように視覚的な評価などを総合的に判断する必要があるため、医学的な知識や経験が必要です。

ただし、最近では頭頂部の画像をもとに大まかなゆがみの程度がわかるアプリが登場しています。そのため、受診がすぐにできない場合などは、そういったアプリを活用して、かかりつけの医師に相談するのも良いと思います。

Q.頭のゆがみが重度の場合、すぐにヘルメット治療をしなければいけないのですか?

A.ヘルメット治療の対象となるのは中等度以上のゆがみですが、中等度以上だからといって必ず治療をしなければいけないわけではありません。治療の効果や費用、期間などを考慮した上で、治療を行わないと判断するご家族もいらっしゃいます。

また、3か月以下の赤ちゃんであれば、体位変換などの方法で改善することもあります。最終的にヘルメット治療をするかどうか決めるのはご両親となるため、重要なのは医療機関を受診して正しいゆがみの程度を知り、治療についての情報を理解した上で判断することだと思います。

LINE 頭の形相談

実際の現場では何が起きている?医師に聞く重症度評価と相談のタイミング

斜頭症や短頭症の重症度を判断する方法についてご説明してきました。では、実際の診療現場ではどのように重症度を評価し、どのタイミングで相談すればよいのでしょうか。

ここでは、頭のかたち外来を担当する医師の声をもとに、現場での評価プロセスや相談のタイミング、初診から診察までの流れをご紹介します。

診療現場での重症度評価

診療現場では、3Dスキャンによる数値だけでなく、視診による評価を組み合わせて総合的に重症度を判断しています。多くの医療機関では、まず視診でArgenta分類に基づいた見た目の評価を行い、その後3Dスキャンで客観的な数値を取得するというプロセスを採用しています。

視診では、顔面変形の程度、耳の位置のずれ、前頭部や頬骨の出具合などを確認します。この段階で「中等症以上と思われる」「軽症でヘルメット治療の適応はないかもしれない」といった見立てを行い、その後3Dスキャンで数値データを取得して総合評価を行います。

「まず、3Dスキャンを取る前に、視診で見た目のアルジェンタ分類を行います。顔面変形の程度、耳の変形、前頭部とほっぺたの出具合などを確認します。例えば、『お子さんは残念ながら少なくとも中等症以上だと思います』とか、『微妙な変形しかないので、見た目としては軽症で、ヘルメット療法の適用はないかもしれません』といった話をしてから3Dスキャンを行います」(能登孝昇先生 サンスカイのと小児科クリニック)

相談のタイミング

頭の形の重症度を知りたい場合、いつ頃相談すればよいのでしょうか。多くの医師は、生後3〜4か月頃の受診を推奨しています。研究データによると、この時期が頭の変形のピークとなることが多く、その後自然に改善するケースもあるため、変形のピークを見極めることが重要とされています。

月齢

主な対応方法

ポイント

生後1〜2か月

体位変換・タミータイム指導

理学療法で予防・改善ができる可能性

生後3〜4か月

診察・重症度評価、必要に応じて治療開始

頭の形の変形がピークの時期

生後7か月以降

診察・説明・経過観察

頭の成長が緩やかになってくる時期

治療するかどうか迷う場合は、1か月様子を見てから判断することも可能です。決断を急ぐ必要はありませんが、選択肢を広げるためにも早めの相談が大切です。

「理想は4か月頃ですね。3、4か月健診で頭の形を指摘されることもあり、そういった場合は、私の外来に来ていただくと、一旦様子をみるなどのヘルメット治療以外の選択肢も検討できます。私たちの研究データから見ても、3、4か月くらいが頭の変形のピークになります」(森岡一朗先生 板橋セントラルクリニック)

診療の流れ

頭のかたち外来での診療は、多くの医療機関で以下のような流れで進められています。初診にかかる時間は30〜40分程度が一般的です。

初診時の診療ステップ:

  1. 問診・診察:いつ頃から気になり始めたか、どのような症状かなどを詳しくお伺いし、頭蓋骨縫合早期癒合症などの疾患の有無を確認します。必要に応じてレントゲン撮影を行う場合もあります。

  2. 計測・3D撮影:ノギスや3Dスキャナーを用いて頭の形を客観的に評価し、CA・CVAI・CIなどの数値を算出します。
  3. 結果説明・治療方針の相談:数値データと視診の結果をもとに重症度を総合評価し、治療の必要性や選択肢についてご説明します。

「最初にレントゲンを撮り、頭蓋骨縫合早期癒合症などの病気がないか確認をします。その後の診察ではノギスという計測器で頭の形の歪みを確認し、重症度を評価します。その上でヘルメット治療などの治療方法についてご説明し、お母さんと一緒に治療方針を決めていきます」(一和多信孝先生 公立阿伎留医療センター)

重症度が気になったら、まずは相談を

重症度を正確に知ることは、今後の対応を考える上で重要な第一歩です。軽症であれば安心につながりますし、中等症以上であれば適切な対処法を検討するきっかけになります。

ヘルメット治療を前提とする必要はありませんので、気になることがあればまずは専門の医療機関に相談してみてください。