公開日 2025/05/29
【医師解説】妊娠初期のおりものの変化とは?生理前と何が違う?知っておきたい量や色の特徴と対策

目次

久保田産婦人科病院
西野 枝里菜 先生
妊娠初期、多くのママは体の微妙な変化に敏感になります。特におりものの変化は、妊娠の初期サインとして注目されることが多いものです。妊娠すると女性ホルモンのバランスが大きく変わるため、おりものの量や性状にも変化が現れます。これは自然な身体の反応ですが、「これって正常?」と不安に感じることもあるでしょう。
この記事では、妊娠初期に起こるおりものの変化や特徴、注意すべき症状、そして対処法について詳しくご紹介します。妊娠初期を安心して過ごすための参考にしていただければ幸いです。
なぜ妊娠するとおりものが変わるの?妊娠するとおこる体の仕組み
妊娠するとおりものが変化するのには、しっかりとした生理学的な理由があります。この変化は、赤ちゃんを守るための母体の大切な働きです。妊娠初期のおりものの変化を理解することで、ママたちの不安も軽減できるでしょう。
妊娠が成立すると、女性の体内ではホルモンバランスが劇的に変化します。特にプロゲステロン(黄体ホルモン)とエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量が増加します。これらのホルモンは子宮内膜を厚くして胎児の着床と発育をサポートする役割を担っています。

妊娠によるホルモンバランスの変化
妊娠が成立すると、胎盤からヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンが分泌されます。このhCGは妊娠検査薬で検出されるホルモンで、エストロゲンとプロゲステロンの分泌を促進します。
これらのホルモンの増加により、子宮頸管の粘液(おりもの)の量が増えたり、粘り気が変わったりします。この変化は受精卵を守り、外部からの細菌などの侵入を防ぐバリアとしての役割を果たしています。妊娠前と比べておりものが増えたと感じるママは多く、これは完全に正常な生理反応です。
妊娠初期の子宮と腟の変化
妊娠初期には子宮だけでなく、腟の環境も変化します。腟内は通常も自浄作用を持っていますが、妊娠するとこの作用がさらに活発になります。これも赤ちゃんを守るための体の防御機能の一つです。
子宮頸管からは「頸管粘液」と呼ばれる分泌物が出ています。妊娠すると、この頸管粘液の量が増加し、子宮口を塞ぐ「粘液栓」を形成します。粘液栓は細菌などの異物が子宮内に侵入するのを防ぐバリアの役割を果たします。
また、妊娠によって腟内の血流も増加します。これにより腟壁からの分泌物も増え、結果としておりものの量が増加するのです。これらの変化は妊娠を維持し、母体と赤ちゃんを守るための自然な反応なのです。
これって正常?妊娠初期のおりものはどう変わる?
妊娠初期のおりものには、いくつかの特徴的な変化が現れます。これらの変化を知っておくことで、自分の身体の状態を理解し、異常との区別がつけやすくなります。ただし、個人差も大きいので、全ての方に同じ症状が現れるわけではないことをご理解ください。
量の変化
妊娠初期には、おりものの量が増加することが一般的です。これは前述したホルモンバランスの変化と子宮・腟の変化によるものです。特に妊娠5〜6週目頃から顕著になることが多いです。
中には「下着が濡れる感じがする」「頻繁にトイレでおりものを確認したくなる」というママもいます。量の増加は個人差がありますが、急激な増加でなければ、通常は心配する必要はありません。
おりものの量が増えると不快に感じることもありますが、これは赤ちゃんを守るための大切な変化です。清潔を保つために下着の交換頻度を増やすなどの対応をするとよいでしょう。
色や匂いの変化
妊娠初期のおりものは、通常は白色〜乳白色で、透明感のあるものが健康的です。卵白状(生の卵白のようなねばねばした状態)や乳白色のクリーム状になることが多いです。
匂いについては、通常は無臭か微かな酸味のある匂いがする程度です。強い不快な臭いがする場合は、感染症の可能性もありますので、医師に相談することをおすすめします。
また、妊娠超初期から初期にかけて、着床出血に伴いおりものがピンク色や茶色っぽくなることもあります。これは着床時に少量の出血が起こるためで、多くの場合は問題ありません。ただし、鮮血のような赤いおりものや出血が続く場合は、早めに医師に相談しましょう。
粘り気・質感の変化
妊娠初期のおりものは、非妊娠時に比べて粘り気が少なくなることが特徴です。
質感としては、「とろっとしている」「糸を引く」と表現されることが多いです。この状態は、子宮口を守るバリアとしての役割を果たしています。
妊娠が進むにつれて、おりものの質感も変化していきます。初期は水っぽい感じから始まり、次第に粘り気が増していくパターンが一般的です。ただし、これにも個人差があります。
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これって異常?医師に相談すべきおりものの症状
妊娠初期には様々なおりもの変化が起こりますが、中には注意が必要な異常もあります。ここでは、医師への相談が必要なおりものの状態について解説します。
感染症の可能性があるおりものの症状
妊娠中は免疫力の変化により、腟感染症にかかりやすくなることがあります。特に注意すべき症状としては、強い悪臭を伴うおりもの、黄緑色や灰色のおりもの、水様で泡状のおりものなどが挙げられます。
腟カンジダの場合は、白色〜黄白色の塊状のおりものが見られ、強いかゆみを伴うことが特徴です。トリコモナス腟炎では黄緑色の泡状のおりものと悪臭、細菌性腟症では灰色の魚臭いおりものが特徴的です。
これらの症状がある場合は、自己判断せずに産婦人科を受診しましょう。妊娠中の腟感染症は適切に治療することで、母体と赤ちゃんへの影響を最小限に抑えることができます。
出血を伴うおりもの症状
妊娠初期に少量のピンク色や茶色のおりものが見られることはありますが、鮮血のような赤い出血がある場合は注意が必要です。特に生理のような量の出血や、腹痛を伴う出血は切迫流産や子宮外妊娠の可能性もあります。
出血が続く場合や量が多い場合、強い腹痛を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。早期の対応が母体と赤ちゃんの安全を守るために重要です。
医師に相談すべきおりものの症状
以下のような症状がある場合は、早めに産婦人科医に相談することをおすすめします。まず、強い下腹部痛や腰痛を伴うおりものの変化には注意が必要です。これは子宮外妊娠や流産の兆候の可能性があります。
また、水様の透明なおりものが大量に出る場合も注意が必要です。これは破水の可能性もあるため、すぐに医療機関を受診してください。発熱を伴うおりものの異常も、子宮内感染の可能性があります。
おりものに強い悪臭がある、かゆみや痛みを伴う、通常と明らかに色や量が異なるといった場合も、医師に相談するべき症状です。
妊娠初期を快適に過ごすためのおりものケアと対策
妊娠初期のおりものが増加することは自然な変化ですが、快適に過ごすためには適切なケアが大切です。ここでは、おりものが増えた時の対処法と、トラブルを防ぐためのケア方法をご紹介します。
適切な洗い方と下着
デリケートゾーンの洗い方は、刺激の少ない方法を選びましょう。石鹸をたっぷり泡立て、優しく洗うのがポイントです。強くこすったり、腟内を洗おうとしたりすると、自浄作用を損なう可能性があります。
洗浄料は、弱酸性の刺激の少ないものを選ぶことをおすすめします。普通の石鹸でも問題ありませんが、香料や着色料が少ないシンプルなものが適しています。洗浄後はきちんとすすぎ、清潔なタオルで優しく水分を拭き取りましょう。
下着の選び方も重要です。通気性の良い綿素材の下着を選ぶことで、湿気がこもりにくくなります。合成繊維の下着やストッキングは通気性が悪いため、長時間の着用は避けた方が良いでしょう。また、きつすぎる下着も避けましょう。
おりものシートの活用法
おりものが増える妊娠初期には、おりものシートが便利です。おりものシートは、下着の内側に貼り付けて使用するもので、おりものを吸収し、下着の汚れを防ぎます。
おりものシートを選ぶ際は、通気性の良いタイプを選びましょう。また、肌に直接触れるものなので、無香料・無着色の肌に優しいタイプがおすすめです。敏感肌の方は、低刺激タイプや天然素材のものを選ぶとよいでしょう。
ただし、おりものシートを長時間使用すると、湿気がこもりやすくなりますので定期的に交換することを心がけましょう。また、おりものの状態を確認するためにも、1日に数回は交換するのがおすすめです。

腟内環境を整える生活習慣
腟内環境を健康に保つためには、日常生活での心がけも重要です。まず、栄養バランスの取れた食事を心がけましょう。特にヨーグルトなどの乳酸菌を含む食品は、腸内環境を整え、間接的に腟内環境にも良い影響を与えるとされています。
適度な水分摂取も大切です。水分をしっかり摂ることで、体内の老廃物の排出がスムーズになります。また、ストレスは免疫機能に影響を与えるため、リラックスできる時間を持つことも重要です。
十分な睡眠も免疫力維持に欠かせません。妊娠初期は特に疲れやすい時期ですので、無理をせず、しっかり休息を取りましょう。また、過度な清潔志向も逆効果になることがあります。デリケートゾーンの洗いすぎは自浄作用を低下させる可能性があるため、適度な清潔さを保つ程度にしましょう。
Q&A:妊娠初期のおりものに関するよくある質問と回答
ここでは、妊娠初期のおりものに関する3つの疑問をQ&A形式でわかりやすく解説します。生理前のおりものとの違いや、異常を示す症状、普段のケア方法などを知ることで、妊娠中の不安を少しでも軽減できれば幸いです。ぜひ参考にして、快適な妊娠初期ライフをお過ごしください。
Q.生理前と妊娠初期のおりものの違いはありますか?
A.はい、生理前と妊娠初期のおりものには一般的に違いがあります。生理前のおりものは通常、黄体期のプロゲステロンホルモンの影響により、やや粘り気が増し、量が減少する傾向があります。色は白っぽいか黄色みを帯びていることが多く、生理が近づくにつれて茶色や赤みがかることもあります。
一方、妊娠初期のおりものは、エストロゲンの増加と子宮頸部の変化により、量が増え、透明〜乳白色で水っぽいことが特徴です。妊娠が進むにつれて分泌量がさらに増加する傾向があります。
また、独特のにおいがする場合もありますが、強い不快臭ではない限り心配する必要はありません。妊娠による体内環境の変化は個人差が大きいため、過去の妊娠経験者でも今回は異なるパターンが現れることもあります。ただし、おりものの変化だけで妊娠を判断することは難しく、他の妊娠初期症状や妊娠検査と合わせて考えることが重要です。
Q.妊娠初期に注意すべき異常なおりものの特徴はありますか?
A.妊娠初期には注意すべきおりものの異常がいくつかあります。鮮血や鮮赤色のおりものは、着床出血の場合もありますが、流産の兆候の可能性もあるため、特に痛みを伴う場合や出血量が多い場合は医師に相談しましょう。灰色や緑色のおりもの、または泡立ちがあるものは細菌性腟症やトリコモナス腟炎などの感染症の可能性があります。また、濃い黄色や黄緑色で悪臭を伴うおりものは細菌感染の兆候かもしれません。
チーズ状の白いおりものとかゆみがある場合は、カンジダ(腟カンジダ)を疑います。妊娠中はホルモンバランスの変化によりカンジダに感染しやすくなります。水のように大量のおりものがある場合は、破水との区別が必要なことがあります。おりものパッドでも吸収しきれないほどの液体が出る場合は、念のため医師に相談しましょう。妊娠中は腟内環境が変化し感染症にかかりやすくなるため、異常なおりものを放置せず、早めに産婦人科を受診することが大切です。
Q.妊娠初期のおりものケアの方法はありますか?
A.妊娠初期のおりものケアには適切な方法があります。まず清潔を保つことが大切で、外陰部は毎日優しく洗いましょう。ただし腟内洗浄は自然な環境バランスを乱す可能性があるため避けてください。お湯か刺激の少ない石鹸で洗い、しっかり乾かすことが重要です。適切な下着選びも大切で、通気性の良い綿素材を選び、きつすぎる下着や合成繊維は避けましょう。湿気がこもると雑菌が繁殖しやすくなります。
増加したおりものに対応するために、香料や刺激物が含まれていないおりものシートを使うと快適に過ごせますが、こまめに交換し長時間の使用は避けましょう。入浴方法も工夫し、長時間や熱いお湯での入浴は腟内環境を乱す可能性があるため、ぬるめのお湯で適度な時間の入浴がよいでしょう。食生活では免疫力を高めるバランスの良い食事と十分な水分摂取を心がけ、ヨーグルトなどの乳酸菌食品も腸内環境を整えるのに役立ちます。おりものの色、量、におい、質感の変化に注意し、異常を感じたら自己判断せず早めに医師に相談することが大切です。妊娠中は免疫力が変化し感染症にかかりやすいため、適切なケアを心がけましょう。
妊娠初期のおりもの変化は赤ちゃんからのサイン|一人で悩まず医師に相談を
妊娠初期のおりもの変化は、赤ちゃんと母体を守るための自然な生理現象です。量の増加や白色・乳白色のクリーム状になるなどの変化は、妊娠に伴うホルモンバランスの変化によるものです。
ただし、妊娠初期の体調変化は個人差が大きいものです。「これって普通?」と不安になることもあるかもしれませんが、心配なことがあれば遠慮なく医師に相談してください。あなたと赤ちゃんの健康を守るために、専門家のサポートを受けながら、妊娠生活を送りましょう。
