公開日 2025/05/29
【医師解説】つわりっていつからいつまで?つわりの症状と対策

目次

久保田産婦人科病院
西野 枝里菜 先生
妊娠が分かったとき、多くのママが気になるのが「つわりはいつから始まるの?」という疑問ではないでしょうか。妊娠初期の大きな悩みの一つであるつわりは、人によって症状の現れ方や時期が異なります。
妊娠5週目頃から始まることが多いとされていますが、早い方では妊娠判明とほぼ同時に、また遅い方では妊娠8週目以降に症状が出ることもあります。つわりの症状を知り、適切な対策を取ることで、この大変な時期を少しでも楽に過ごせるようにしましょう。
つわりって何?いつから始まっていつまで続くの?つわりの基本を知ろう
つわりは医学的には「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と呼ばれる妊娠初期に見られる症状です。吐き気や嘔吐、食欲不振などが主な症状として知られていますが、実はつわりの現れ方は人それぞれで、全く症状が出ない方もいれば、日常生活が困難なほど強い症状に悩まされる方もいます。つわりは多くの場合、妊娠初期に現れる一時的な症状であり、妊娠16週頃までには自然と収まることが多いとされています。しかし中には妊娠後期まで続く方もいるため、個人差が大きいといえるでしょう。
つわりの原因
つわりの正確な原因は現在でも完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関係していると考えられています。最も有力な説は、妊娠初期に急増するヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンの影響です。
このホルモンは胎盤の形成を促進し、妊娠を維持するために重要な役割を果たしますが、同時に消化器系に影響を与え、吐き気や嘔吐などの症状を引き起こすと考えられています。また、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの増加も関与しているとされています。
さらに、妊娠による身体の変化や疲労、精神的ストレス、遺伝的要因なども複合的に関わっている可能性があります。心理的な要因も無視できず、妊娠に対する不安や緊張がつわりを悪化させることもあります。
つわりはいつから始まる?
多くの場合、つわりは妊娠5〜6週目頃(最終月経から数えて)から始まることが多いとされています。これは受精卵が子宮内膜に着床し、hCGホルモンの分泌が増加する時期と一致します。
しかし、つわりの開始時期には個人差があり、早い方では妊娠4週目(妊娠に気づく頃)から症状が現れることもあれば、遅い方では8週目以降に始まることもあります。また、全くつわりを経験しない方も約20%程度いるとされています。
妊娠週数別のつわりの特徴
妊娠週数によってつわりの症状や強さは変化していくことが多いです。一般的な経過を見ていきましょう。妊娠4〜5週目では、軽い吐き気や食欲不振、特定の匂いに敏感になるといった初期症状が現れることがあります。
妊娠8〜10週目になると、症状がピークを迎えることが多く、朝起きたときだけでなく一日中吐き気を感じたり、実際に嘔吐したりする方も増えてきます。食べ物の好みが極端に変わったり、強い疲労感を覚えたりすることもこの時期の特徴です。
妊娠12〜13週目では、多くの方でつわりの症状が徐々に和らぎ始めます。ただし、この時期になっても症状が続く方や、逆に症状が強くなる方もいるため、一概には言えません。
妊娠15〜16週目になると、大半の方はつわりの症状が収まっていきます。第二期(中期)に入るこの時期は、体調が安定してくることが多いでしょう。ただし、稀ですが、16週以降もつわりが続くことがあります。
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こんな症状もつわり?吐き気以外にもこんな症状が!
つわりといっても、その症状は人によって大きく異なります。最も一般的なものから、意外と知られていない症状まで紹介します。つわりの症状を知ることで、自分の体調変化に対する理解が深まり、適切な対応ができるようになります。
吐き気・嘔吐
つわりの代表的な症状は吐き気と嘔吐です。「つわり=朝の吐き気」というイメージがありますが、実際には一日中いつでも起こる可能性があります。朝起きたときに吐き気を感じる方もいれば、夕方から夜にかけて症状が強くなる方もいます。
吐き気の程度も様々で、軽い不快感程度の方から、頻繁に嘔吐してしまう方まで個人差があります。嘔吐が頻繁に起こる場合は脱水症状に注意が必要です。水分も摂れないほどの強い嘔吐が続く場合は、「重症妊娠悪阻(じゅうしょうにんしんおそ)」の可能性もあるため、医師に相談しましょう。
食欲不振と食の好みの変化

つわりによって食欲が減退したり、普段好きだった食べ物が受け付けなくなったりすることがあります。特に肉類や油っぽい食べ物、強い匂いのする食品に対して拒否感を示す方が多いです。
逆に、普段あまり好まなかった食べ物や、酸っぱいもの、冷たいものなどを急に欲するようになることもあります。これは「食の好みの変化」や「食べ物の嗜好の変化」と呼ばれ、妊娠中のホルモンバランスの変化が影響していると考えられています。
匂いに対する過敏反応
妊娠中は匂いに対して非常に敏感になることがあります。普段は気にならなかった料理の匂い、香水、タバコの匂いなどが急に不快に感じられ、吐き気を誘発することがあります。
この過敏反応は、妊娠中のホルモン変化によって嗅覚が敏感になることが原因と考えられています。パートナーや家族に理解してもらい、強い匂いのするものを控えてもらうことも対策の一つです。
倦怠感・疲労感
つわりの時期には強い倦怠感や疲労感を感じることが多いです。これは単に吐き気や食欲不振による体力低下だけでなく、妊娠によるホルモンの変化や体内での赤ちゃんの成長に対応するためのエネルギー消費が影響しています。
特に初期は眠気が強く出ることもあり、日中でも強い眠気に襲われることがあります。この時期は無理せず、できるだけ休息を取ることが大切です。
唾液の増加
妊娠中に唾液の分泌が増えることがあり、これを「よだれつわり」と呼ぶこともあります。常に口の中に唾液が溜まるような感覚があり、不快に感じる方も少なくありません。
唾液の増加は妊娠によるホルモンの変化が原因とされています。水分をこまめに摂ったり、ガムを噛んだりすることで多少は緩和できることもあります。
つらいつわりを少しでも楽にするには?今すぐできる対策
つわりの時期を少しでも楽に過ごすための対策をご紹介します。ご自身の症状や生活スタイルに合わせて、試してみてください。一つの方法が効かなくても、別の方法が効果的なこともありますので、様々な対策を試してみることをおすすめします。
食事の工夫しよう
つわり期間中の食事は、無理せず食べられるものを少量ずつ摂ることが基本です。空腹状態が吐き気を悪化させることもあるため、1日3食にこだわらず、5〜6回に分けて小分けに食べると良いでしょう。
朝起きてすぐは吐き気が強いことが多いため、ベッドサイドにクラッカーなどの軽い食べ物を置いておき、起き上がる前に少し食べると症状が和らぐことがあります。また、消化の良い炭水化物(おかゆ、うどん、パンなど)や冷たい果物が受け入れやすいという方も多いです。
脂っこいものや刺激の強いもの、強い匂いのする食品は避け、淡白でさっぱりした食べ物を選ぶと良いでしょう。また、食事と飲み物は時間をずらして摂ることで、胃への負担を減らすことができます。
生活習慣の見直しをしよう
つわりの時期は、できるだけ生活にゆとりを持たせることが大切です。特に疲労はつわりを悪化させることがあるため、十分な休息を取りましょう。仕事をしている方は、可能であれば勤務時間の調整や在宅勤務を検討するのも一つの方法です。
また、ストレスもつわりを悪化させる要因となるため、リラックスできる時間を意識的に作ることが大切です。軽いストレッチやヨガ、深呼吸などのリラクゼーション法を取り入れてみるのも良いでしょう。
つわりに効果的な食べ物・飲み物は?
ここではつわりを和らげる効果があるとされる食べ物や飲み物をご紹介します。生姜(しょうが)は古くから吐き気を抑える効果があるとされており、生姜紅茶や生姜飴などを試してみる価値があります。
ビタミンB6を含む食品(バナナ、アボカド、サツマイモなど)も効果があるとされています。また、レモンなどの柑橘系の果物や、ハーブティー(ペパーミント、カモミールなど)も症状を和らげるのに役立つことがあります。
水分補給は非常に重要ですが、大量に一度に飲むと胃に負担がかかります。少量ずつこまめに摂るようにしましょう。水が飲みにくい場合は、スポーツドリンクを薄めたものやフルーツ入りの水、氷をなめるなどの方法も試してみてください。
すぐに使える!市販のつわり対策グッズ
薬局やインターネットで購入できるつわり対策グッズもあります。つわりバンドは、手首のツボを刺激することで吐き気を抑える効果があるとされています。腕時計のように手首に装着するだけなので、簡単に試すことができます。
また、アロマオイル(特にペパーミントやレモングラスなど)を使った芳香療法も、匂いに敏感でなければ効果的なことがあります。ただし、妊娠中は使用できないアロマオイルもあるため、必ず妊娠中に安全とされているものを選びましょう。
つわり用のキャンディーや飴も市販されています。酸味や生姜の成分が含まれたものが多く、外出先でも手軽に使えるのが特徴です。
病院に行くべき?医療機関への相談が必要な注意すべきつわり症状

通常のつわりは自然に収まっていくものですが、症状が重い場合や長期間続く場合は医療機関を受診する必要があります。特に以下のような症状がある場合は、早めに産婦人科を受診しましょう。
注意すべきつわりの症状
1日に何度も嘔吐が続き、水分も摂れない状態が24時間以上続く場合は要注意です。また、尿量が減少する、尿の色が濃くなる、めまいや立ちくらみがするなどの脱水症状がある場合も受診が必要です。
体重減少(3kg以上)や、38度以上の発熱を伴う場合も医師に相談すべき症状です。また、吐いた物に血が混じっている場合や、腹痛が強い場合も早急に受診してください。
つわりが妊娠16週を過ぎても全く軽減しない場合も、一度医師に相談することをおすすめします。状況によっては薬による治療が必要になることもあります。
つわりの薬物療法
重度のつわりの場合、医師の判断により薬物療法が行われることがあります。妊娠中の薬の使用には慎重な判断が必要ですが、母体の健康状態が著しく損なわれる場合は、リスクとベネフィットを考慮した上で薬が処方されることがあります。
制吐剤や胃腸薬、ビタミンB6製剤や漢方薬などが一般的に使用されます。これらの薬は、適切な用量で使用する限り、胎児への影響は最小限に抑えられると考えられています。
薬を処方された場合は、必ず医師の指示通りに服用し、気になる症状があれば速やかに報告することが大切です。自己判断で市販薬を服用することは避け、必ず医師に相談しましょう。
Q&A:つわりのに関するよくある質問と回答
ここでは、つわりに悩む妊婦さんが抱えがちな3つの疑問についてQ&A形式で解説します。朝夜の症状の違いから、つわりがない場合の不安、そして重度のつわりかどうかを見極めるポイントまで、ぜひ参考にしてみてください。
Q.夜より朝の方がつわりがひどくなるって本当ですか?
A.はい、多くの妊婦さんが朝方にはつわりの症状が強くなると感じることが多く、これは「つわり」が「つあさり(朝つわり)」という言葉から来ているという説もあるほどです。朝方につわりが強くなる主な理由としては、夜間の空腹状態による血糖値の低下などが考えられています。
ただし、つわりの現れ方には個人差があり、朝だけでなく一日中症状が続く方や、逆に夕方から夜にかけて悪化する方もいます。特に疲労がたまっている時間帯や空腹時に症状が強まる傾向があります。また、特定の匂いや食べ物、環境によって症状が誘発されることもあります。妊娠初期はhCGホルモンの急激な増加に伴い、つわりが発生すると言われていますが、このホルモンの影響の受け方には個人差があるため、症状のパターンも人それぞれです。
Q.つわりがないのですが、大丈夫ですか?
A.つわりがない、または軽度のつわりで済む方は全体の約20~30%いると言われており、まったく問題ありません。つわりの有無や程度は妊娠の健全さや赤ちゃんの発育状態と直接的な関連はないとされています。つわりがないからといって、妊娠がうまく進んでいないということではないのでご安心ください。
つわりの発現メカニズムは完全には解明されていませんが、hCGホルモンの増加、エストロゲンの上昇、血糖値の変動など複数の要因が関わっていると考えられています。これらのホルモンに対する感受性は人によって異なるため、つわりを感じない方もいるのです。また、つわりは妊娠全期間を通じてない方もいれば、最初はなくても後から始まる方、あるいは一時的に現れて消える方など様々です。定期検診で胎児の発育に問題がなければ、つわりの有無を心配する必要はありません。
Q.つわりがひどいかどうかの判断基準はありますか?
A.通常のつわりと病的なつわりを区別する明確な基準があります。通常のつわりは食事摂取や日常生活に支障をきたすものの、水分や栄養の摂取が可能で、体重減少が妊娠前の5%未満に留まる状態です。一方、妊娠悪阻は以下のような症状が見られる場合に疑われます。
・激しい嘔吐が1日に3回以上続く
・水分さえも受け付けられず、24時間以上水分摂取ができない
・めまいや立ちくらみが頻繁に起こる
・尿量が減少したり、尿の色が濃くなる
・体重が急激に減少する(妊娠前の5%以上)
・口唇や皮膚の乾燥が著しい
・倦怠感が強く、日常生活が著しく困難になる
これらの症状がある場合は、脱水症状や電解質のバランス異常を引き起こす可能性があるため、早急に医療機関を受診することが重要です。つわり対策としては、少量ずつこまめに食事をとる、消化の良いものを選ぶ、起床時にすぐに水分を摂るなどの工夫が効果的な場合もあります。
正しい知識と対策で、つわりの時期を少しでも快適に過ごしましょう
つわりは多くの妊婦さんが経験する妊娠初期の症状で、一般的には妊娠5〜6週頃から始まり、16週頃までには収まることが多いものです。症状や現れ方には個人差があり、全く症状が出ない方もいれば、日常生活に支障をきたすほど強い症状に悩まされる方もいます。
つわりの時期は辛いものですが、多くの場合は時間とともに自然に収まっていきます。この時期を乗り越えた先には、赤ちゃんとの素敵な出会いが待っています。ご自身の体調に合わせて無理をせず、周囲のサポートも活用しながら、妊娠生活を送っていただければと思います。
