公開日 2026/07/15
【論文解説】日本人乳児の位置的斜頭症に対するヘルメット治療の安全性と有効性を評価した2021年の研究|Takamatsu 2021
書誌情報 Takamatsu A, Hikosaka M, Kaneko T, Mikami M, Kaneko A. Evaluation of the Molding Helmet Therapy for Japanese Infants with Deformational Plagiocephaly. JMA Journal. 2021;4(1):50-60.
この研究は何について調べたの?──国内で評価が乏しかったヘルメット治療の安全性と有効性を日本人で検証
位置的斜頭症(deformational plagiocephaly: DP)は、後頭部などが片側に長時間圧迫されて起こる頭の形のずれです。症状の重い例にはヘルメット療法(頭蓋形状矯正装具療法)が国際的に行われていますが、米国食品医薬品局(FDA)が50種類以上の装具を承認しているのに対し、日本では当時、有効性・安全性に関するエビデンスがきわめて限られていました。日本人乳児は伝統的に仰向け寝で、DP の有病率は欧米より高いと推測される一方、「赤ちゃんの頭の形は自然に治る」と説明されることも多く、保護者には十分なエビデンスが届いていない状況でした。本研究は、国立成育医療研究センター「赤ちゃんの頭の形外来」(東京)で実施されたヘルメット療法の安全性と有効性を、日本人乳児で初めて系統的に検証した報告です。
どうやって調べたの?──国立成育医療研究センターの159例を後方視的に治療前後で評価
2011年10月28日〜2014年3月26日の2年4ヶ月間に同外来を受診した乳児を対象とした単群・後方視的・非無作為化研究です。プラスチック外科専門医3名と義肢装具士1名の体制で運営され、紹介状を持つ患者を診療しました。総受診387例(男児273例、女児114例、初診平均月齢4.7ヶ月)のうち、頭蓋骨縫合早期癒合症 疑い10例、その他の頭蓋変形等を除外した DP/DB 366例から、最終的にヘルメット療法を完遂し全データの揃った159例を解析しました。重症度の評価は Argenta 分類(修正版)と Loveday 法に基づく人体計測(頭囲・CA:頭蓋非対称、CI:頭蓋指数)を併用し、CVAI も算出しました。ヘルメットは OMEGA Scanner で頭部をスキャンしたデータをもとに、同一の形成外科医が OMEGA Tracer ソフトで設計し、米国 Danmer 社の Michigan Cranial Reshaping Orthosis(重量200g 未満)を製造して空輸しました。23時間/日の装着を基本に、3〜4週ごとの調整を行いました。費用は当時の研究費補助があり患者負担は10万円でした。解析は Bowker 検定と対応のある t 検定を主要解析(p=0.025 を有意水準)、線形混合効果モデルを影響因子解析に用いました。
何がわかったの?──CA は16.3mm→7.7mm、CVAI は12.9%→5.4%へ統計的に有意に改善
解析対象159例の平均ヘルメット療法開始月齢は24.1週(SD 5.0、約6ヶ月)、平均治療期間は21.2週(SD 5.3、約5ヶ月)でした。Argenta 分類は治療開始時 type IV が69例(43%)と最多でしたが、終了時には type I が51例(32%)と最多になり、平均タイプは3.7→1.7へ有意に改善しました(p<0.001、Bowker 検定)。人体計測の CA(頭蓋非対称、左右の対角線差の絶対値)は平均16.3mm(SD 4.2)から7.7mm(SD 3.5)へ、CVAI は12.9%(SD 3.6)から5.4%(SD 2.4)へ、CI(頭蓋指数)は93.5(SD 8.3)から88.7(SD 5.6)へ、いずれも p<0.001 で有意に改善しました。線形混合効果モデルでは、有意な影響因子は「治療期間」のみ(係数 −0.40、1週で CA が約0.40mm 減少、p<0.001)で、年齢や頭囲は統計的に有意ではないものの、開始月齢が遅い・治療前の CA が大きい・頭囲が大きいほど終了時の CA が大きく残る傾向が示されました。安全性については、ほぼ全例で発汗増加・軽度の皮膚刺激・発疹がみられましたが軟膏で軽快し、1例のみ著しい発汗のため治療中止、もう1例で慣らし期間不足のため皮膚水疱が出現し5日休止後に再開しました。皮膚潰瘍はなく、装具の追加製作も不要でした。
これはどんな意味があるの?──日本での臨床応用と保険外診療・早期介入を巡る位置づけ
本研究は、日本人乳児を対象に DP に対するヘルメット療法の効果と安全性を系統的に評価した初期の重要な報告で、改善幅は欧米の既報(Kluba 2011:CVAI 13.3%→4.1%、Freudlsperger 2016:9.8%→5.4%)とおおむね整合する結果でした。また、開始月齢が早いほど成績が良い傾向は Aihara ら(2014、2019)など他の日本人を対象とした研究と同じ方向を示しています。ただし、本研究は単群・非無作為化・後方視的研究のため、ヘルメット療法を受けなかった場合の自然経過との直接比較はできません。オランダの van Wijk らの HEADS trial(BMJ 2014)は中等度の DP を対象とした無作為化試験で、ヘルメット治療と自然経過観察に24ヶ月時点で有意差を認めませんでしたが、重度例は除外していました。現在の米国神経外科学会(CNS 2016)ガイドラインは、ヘルメット治療を「重症例または保存的治療(リポジショニング・理学療法)で改善しない例」に限定する立場をとっています。また、当時の日本ではヘルメット療法は保険適用外で、保護者の費用負担も大きな課題でした。本研究は、日本の臨床現場で根拠ある説明と治療を提供するための土台となったエビデンスのひとつとして位置づけられ、その後の保険適用拡大に向けた議論や、より早期の介入を可能にするスクリーニング体制(Miyabayashi 2022 など)の発展につながっています。
書誌情報
著者: Takamatsu A, Hikosaka M, Kaneko T, Mikami M, Kaneko A
所属: Division of Plastic Surgery, National Center for Child Health and Development, Tokyo, Japan; Biostatistics, Clinical Research Center, National Center for Child Health and Development; Bona Dea Clinic, Kanagawa, Japan
ジャーナル: JMA Journal. 2021;4(1):50-60
発表年: 2021年1月
DOI: 10.31662/jmaj.2020-0006
原論文URL: https://doi.org/10.31662/jmaj.2020-0006(閲覧には購読またはジャーナルサイトでの検索が必要です)
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