公開日 2026/05/28
日本人の子どもの頭の形(頭蓋指数)の基準値をCTで示した2010年の研究|Koizumi 2010
書誌情報 Koizumi T, Komuro Y, Hashizume K, Yanai A. Cephalic Index of Japanese Children With Normal Brain Development. The Journal of Craniofacial Surgery. 2010;21(5):1434-1437.
この研究は何について調べたの?──白人基準を日本人にそのまま当てはめてよいのか
頭蓋指数(cephalic index:CI)は、頭の幅と長さの比をもとに頭の形を分類する古典的な指標で、頭蓋骨縫合早期癒合症の評価や手術後の形態評価などに用いられます。CI には人種差・地域差があることが古くから知られていますが、当時の日本では小児を対象とした体系的な報告がほとんどありませんでした。本研究は、頭蓋骨縫合早期癒合症の評価・術後評価に Cohen らの白人基準を用いていることが、現代の日本人小児の形態に当てはまっていないのではないかという問題意識から出発しています。そこで著者らは、頭部外傷で受診したものの CT で「異常なし」と判定された日本人小児を対象に、年齢別の頭蓋指数を CT で実測し、日本人小児に適用できる頭蓋指数の分類を作ることを目的としました。
どうやって調べたの?──0〜3歳の頭部外傷で異常なしの104例をCTで計測
対象は、2000年4月〜2004年4月に順天堂大学医学部附属病院に頭部外傷で受診したものの CT で特に診断のつかなかった3歳未満の小児104例(男児62例、女児42例)です。年齢区分は1歳未満を4区分(0〜3ヶ月、4〜6ヶ月、7〜9ヶ月、10〜12ヶ月)、1〜3歳を3区分(1歳、2歳、3歳)の計7区分とし、Toshiba X-Vigor CT スキャナで7mm スライスの軸位像を撮影しました。計測は眼窩耳孔線(orbitomeatal line)に沿った軸位像上で、Waitzman らの方法に従って頭蓋ボールトの最大幅と最大長を直接 CT フィルム上でファインキャリパと0.5mm 定規を用いて測定し、5cm の基準スケールで標準化しました。頭蓋指数は cephalic width ÷ cephalic length × 100 で算出され(本文上は記述に揺れがあるものの、算出された値は明らかに短頭傾向を示しています)、男女差は対応のない Student t 検定で検定(p<0.05 を有意)し、平均±1SD を中頭(mesocephaly)として年齢区分ごとの分類を組み立てました。
何がわかったの?──日本人小児の平均頭蓋指数は86.5で白人より短頭傾向
全体(n=104)の平均頭蓋指数は86.5(SD 7.3)で、男児87.0(SD 7.5)、女児86.3(SD 6.5)と性差は認められませんでした。年齢別の平均頭蓋指数は、0〜3ヶ月で86.7(n=21)、4〜6ヶ月で87.5(n=9)、7〜9ヶ月で89.2(n=16)、10〜12ヶ月で86.3(n=9)、1歳で85.9(n=25)、2歳で86.3(n=15)、3歳で83.7(n=9)で、7〜9ヶ月が最大、3歳が最小という分布を示しました。全体平均と標準偏差をもとに、日本人小児の頭蓋指数を、79.1以下を長頭(dolichocephaly、n=18)、79.2〜93.8 を中頭(mesocephaly、n=66)、93.9〜101.1 を短頭(brachycephaly、n=19)、101.2 以上を超短頭(hyperbrachycephaly、n=1)と分類しました。Haas の白人小児データ(0〜3歳の平均 CI 81.4〜82)や Waitzman らのデータ(同 77.3)と比較すると、日本人小児の頭蓋指数は明らかに高く、白人より短頭傾向であることが確認されました。Cohen の分類(短頭81.0〜85.4、超短頭85.5以上)では、日本人小児の大半が「超短頭」に分類されてしまうため、そのまま適用することは難しいと述べられています。
これはどんな意味があるの?──日本人の基準値を作った最初期のデータと臨床応用の限界
本研究は、日本人小児の頭蓋指数を年齢区分ごとに CT で計測し、白人由来の分類とは別に「現代の日本人小児に適用できる頭蓋指数の分類」を提示した最初期の研究のひとつとして位置づけられます。頭蓋指数には人種差・地域差があり、頭蓋骨縫合早期癒合症の術前評価や術後評価に白人基準をそのまま用いると、日本人小児の多くが過剰に「短頭」と分類されてしまう懸念を実データで示した点で、その後の日本における手術計画や位置的斜頭症の評価の議論に基礎を与えています。ただし本研究には限界もあります。対象は頭部外傷で受診し CT で異常なしと判断された児で、健常児集団全体を代表する標本ではない可能性があります。また、各年齢区分の症例数が9〜25と小さく、特に1歳未満の各区分の信頼区間は広めに解釈する必要があります。現代では3次元立体写真測量(3D ステレオフォトグラメトリ)など被曝のない計測法が普及し、より大規模な日本人乳児データ(例:Miyabayashi 2022 など)も蓄積されてきています。本研究の意義は「日本人の頭の形は白人と異なる」という当然視されがちな前提に、定量データで根拠を与えた点にあります。
書誌情報
著者: Koizumi T, Komuro Y, Hashizume K, Yanai A
所属: Department of Plastic and Reconstructive Surgery, Juntendo University School of Medicine, Tokyo, Japan
ジャーナル: The Journal of Craniofacial Surgery. 2010;21(5):1434-1437
発表年: 2010年9月
DOI: 10.1097/SCS.0b013e3181ecc2f3
原論文URL: https://journals.lww.com/jcraniofacialsurgery(閲覧には購読またはジャーナルサイトでの検索が必要です)
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