公開日 2026/05/28

ヘルメット治療中も赤ちゃんの頭蓋成長は妨げられないかを検証した1999年の研究|Kelly 1999

書誌情報 Kelly KM, Littlefield TR, Pomatto JK, Manwaring KH, Beals SP. Cranial Growth Unrestricted during Treatment of Deformational Plagiocephaly. Pediatric Neurosurgery. 1999;30:193-199.


この研究は何について調べたの?──ヘルメット治療中も頭蓋全体は標準どおり成長するか

1992年に米国小児科学会(AAP)が SIDS(乳幼児突然死症候群)予防のため赤ちゃんを仰向けで寝かせるよう推奨した後、米国では位置的斜頭症(後頭部などが片側に平たくなる頭の形のずれ)の赤ちゃんが急増し、頭蓋形状矯正ヘルメットによる治療が広がりました。一方で、「ヘルメットが赤ちゃんの頭を外から押さえ続けることで、頭蓋全体の成長を妨げてしまうのではないか」という懸念が以前から指摘されていました。本研究は、米国アリゾナ州の頭蓋形状矯正センター(Cranial Technologies Inc.)が用いる Dynamic Orthotic Cranioplasty(DOC Band)というヘルメットで治療を受けた赤ちゃんを対象に、治療中も頭蓋全体(頭囲・頭の幅・頭の長さ)が標準的に成長しているかどうかを人体計測データで確かめることを目的としています。

どうやって調べたの?──DOC Band 治療190例の人体計測データを治療前後で比較

1993〜1995年に DOC 治療プログラムに参加した、症候群や縫合早期癒合症を伴わない患者477例から、(1)DOC プロトコルに準拠している、(2)1歳未満で治療を開始している、(3)治療前と治療終了時の人体計測値がすべて揃っている、(4)計測は単一の人類学者が実施している、という条件を満たした190例(女児81例、男児109例)を抽出し、後方視的に解析しました。平均治療開始月齢は6.5ヶ月、平均治療期間は4.1ヶ月でした。計測した指標は、頭蓋の非対称性に関する3項目(CVA:頭蓋容量非対称、SBA:頭蓋底非対称、OTDA:眼窩耳珠距離非対称)と、頭蓋全体の成長に関する3項目(頭囲、最大頭蓋幅、最大頭蓋長)です。治療前後の比較には対応のある t 検定を用い、頭蓋全体の成長は Dekaban(1977)の年齢別標準成長曲線とも比較しました。

何がわかったの?──頭囲・頭の幅・頭の長さがいずれも有意に増加し標準値と同等

治療前後で、頭蓋の非対称性指標は3つともすべて統計的に有意に減少しました(CVA は平均5.1mm、SBA は平均2.7mm、OTDA は平均1.9mm の減少、いずれも p<0.001)。一方、同じ治療期間中に頭蓋全体は確かに大きくなっており、頭囲は平均19.2mm、最大頭蓋幅は平均6.0mm、最大頭蓋長は平均6.8mm 増加していました(いずれも p<0.001)。標準成長曲線との比較では、対象児の頭囲は男児・女児ともに標準平均値の周辺に分布し、Dekaban の年齢別標準とほぼ同じ軌道を描いていました。ただし、頭の幅は標準より大きく、頭の長さは標準より小さい傾向が残っており、対象児は治療後も短頭傾向(横に広く前後に短い頭の形)をある程度保持していました。

これはどんな意味があるの?──ヘルメット治療の安全性を支持した初期エビデンスとその限界

本研究は、「ヘルメットが頭蓋全体の成長を妨げる」という当時の懸念に対し、人体計測データで「治療中も頭蓋は標準的に成長する」と応答した初期の報告のひとつとして位置づけられます。ただし、本研究には対照群(ヘルメットを使わない比較群)がなく、自然経過との直接比較ができない点、著者の多くが装具製造企業(Cranial Technologies Inc.)に所属している点、使用ヘルメットは特定企業の DOC Band であり他社製品の成績にそのまま当てはめられない点に注意が必要です。後年に行われた van Wijk らの HEADS trial(BMJ 2014)では、中等度〜重度の斜頭・短頭をもつ乳児について、ヘルメット治療群と自然経過観察群で24ヶ月時点の頭蓋形状指標に有意差は認められませんでした。現在の臨床ガイドライン(CNS 2016 など)も、ヘルメット治療を重症例や保存的治療が無効な例に限って検討する立場をとっています。

書誌情報

著者: Kelly KM, Littlefield TR, Pomatto JK, Manwaring KH, Beals SP

所属: Cranial Technologies Inc., Phoenix, AZ; Department of Neurosurgery, Phoenix Children's Hospital; Southwest Craniofacial Center, Phoenix, AZ; Department of Occupational and Environmental Health, College of Public Health, and Department of Anthropology, University of Iowa, Iowa City, IA, USA

ジャーナル: Pediatric Neurosurgery. 1999;30:193-199

発表年: 1999年

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本記事について

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