公開日 2026/06/08

位置的斜頭症の赤ちゃんの脳の容積と形をMRIで比較した2012年の研究|Collett 2012

書誌情報 Collett BR, Aylward EH, Berg J, Davidoff C, Norden J, Cunningham ML, Speltz ML. Brain volume and shape in infants with deformational plagiocephaly. Child's Nervous System. 2012;28(7):1083-1090.

この研究は何について調べたの?──発達遅滞の背後に脳の容積や形の差があるのか

位置的斜頭症(DP:deformational plagiocephaly)の乳児が、対照群と比べて Bayley Scales of Infant Development III(BSID-III)の運動や認知の得点で平均的にやや低めの結果を示すことが、Speltz ら 2010 などで報告されてきました。ただし、その背景に何があるのかはわかっていません。考えられる仮説は2つあります。ひとつは「もともとの中枢神経の発達差が乳児の運動・自発的な姿勢変化を制限し、結果として頭が平たくなる」という見方で、もうひとつは「頭蓋の変形そのものが内部の脳の形を歪め、機能に影響を与える」という見方です。本研究は、両者を区別する手がかりを得るための予備的な研究として、DP の乳児と対照群の乳児を MRI で撮影し、脳容積・脳の形態指標・脳の左右非対称性指標を比較し、これらの指標と BSID-III 得点の関連を検討することを目的としています。

どうやって調べたの?──シアトルの乳児41例(DP20例、対照21例)を非鎮静MRIで撮影

対象は、Speltz ら 2010 のコホートから募集されたサブセットで、DP の乳児20例(平均月齢7.9ヶ月、SD 1.2、男児12例)と対照乳児21例(平均月齢7.9ヶ月、SD 1.3、男児11例)。DP 群は78家族に打診して50家族が MRI に同意、30例で撮影を試みて20例で成功、対照群は161家族に打診して80家族が同意、39例で撮影を試みて21例で成功と、低い同意率と非鎮静下での撮影成功率の低さは本研究の特徴でもあります。MRI は3T Siemens Trio で自然睡眠下に鎮静なしで撮影し、矢状断0.5×0.5mm、スライス厚1.0mm の高解像度プロトコルを用いました。計測は半自動の閾値処理と手動のトレースを組み合わせ、全脳容積、小脳容積、脳梁および小脳虫部の正中矢状面積、脳梁の長さ・角度、小脳虫部の高さと幅の比、脳幅/脳長比、左右の後方脳長の比などを評価しました。観察者間信頼性は ICC 0.93〜0.99と良好でした。頭の形は3dMDcranial で評価し、対照群中に DP の所見がある児(70例中、本サブセットでは7例)と、DP 群中に DP 所見が認められない児は群間比較から除外しました(ただし発達と脳形態の関連解析では全例を使用)。群間比較は線形回帰で年齢・性別・SES・人種・全脳容積を調整し、効果量(ES)と p 値で評価しています。

何がわかったの?──脳容積に差はなく、後方の形と脳梁の方向に差が見られた

全脳容積、小脳容積、脳梁および小脳虫部の正中矢状面積は、DP 群と対照群でほぼ差が認められませんでした(p=0.214〜0.976)。一方、形態指標では DP 群で後方脳の扁平化が明瞭でした。前後脳長は対照群より短く(ES=−1.31、p=0.001)、後交連(PC)から後方頭蓋までの距離も短く(ES=−2.15、p<0.001)、脳の幅は広く(ES=1.54、p<0.001)、脳幅/脳長比も大きい(ES=1.78、p<0.001)という、頭蓋の形態とパラレルな結果が得られました。脳梁は DP 群で前後方向に短く(ES=−0.99、p=0.012)、AC-PC 線に対する角度が大きく傾いており(ES=1.13、p=0.005)、小脳虫部は高さと高さ/幅比が大きい(虫部高さ/幅 ES=0.83、p=0.035)という所見も認められました。後方脳の非対称性は内側・外側ともに DP 群で大きい結果でした(内側 ES=0.33、p<0.001、外側 ES=0.08、p=0.002)。全例を用いた発達との関連解析では、脳梁の角度(β=−0.61、p<0.001)、虫部高さ/幅比(β=−0.34、p=0.01)、脳幅および脳幅/脳長比(β=−0.55, −0.42、p=0.002, 0.014)、AC-PC 線から頭頂までの距離(β=−0.50、p=0.006)、後方脳の内外側非対称性(β=−0.29, −0.39、p=0.005, 0.029)が BSID-III の運動得点と負に相関しました。後方脳長は運動得点と正の相関(β=0.44、p=0.015)を示し、認知得点は虫部高さ/幅比とのみ負の相関を示しました(β=−0.34、p=0.01)。

これはどんな意味があるの?──脳の変形は神経学的異常ではなく「鋳型に合わせた形」と読むべき限界

本研究は、DP の乳児の脳容積は対照群と差がなく、観察された差は「頭蓋の変形に合わせて脳の形が後方扁平・左右非対称になっている」生体力学的な所見であることを示しています。つまり、本研究の所見は「脳に器質的・神経学的な異常がある」ことを示すものではなく、「外側の鋳型に合わせて内部の構造もシフトしている」と読むべき所見です。また、それらの形態指標の一部が BSID-III の運動得点と相関したことは、「頭蓋・脳の変形が機能に影響している」可能性と、「もともと運動発達がゆっくりな乳児は姿勢変化が乏しく、結果として頭蓋・脳がより変形しやすい」という逆方向の可能性のいずれとも整合します。本研究の限界として、症例数が小さい(DP 群20、対照群21)、横断研究で因果関係は判定できない、多重比較の調整は行っていない、参加同意率が低く選択バイアスを否定できない、追跡データがないため脳の形態が頭蓋形態の自然経過とともに「正常化」していくのかは不明、といった点が著者ら自身によって明示されています。後年の Collett ら 2019(Cognitive Outcomes and Positional Plagiocephaly)は同コホートの認知アウトカムを学童期まで追跡し、群間差が経時的に縮小することを示しました。現時点のエビデンスは、DP を「脳の異常を意味する所見」ではなく「発達のフォローアップのきっかけとなる所見」として捉える立場と整合しており、現代の臨床ガイドラインも DP に対する画像検査の一次的な必要性は否定しています(CNS 2016 Mazzola et al.)。

書誌情報

著者: Collett BR, Aylward EH, Berg J, Davidoff C, Norden J, Cunningham ML, Speltz ML

所属: Department of Psychiatry and Behavioral Sciences, University of Washington; Center for Child Health, Behavior, and Development, and Center for Integrative Brain Research, Seattle Children's Research Institute; Seattle Children's Craniofacial Center, Seattle, WA, USA

ジャーナル: Child's Nervous System. 2012;28(7):1083-1090

発表年: 2012年7月

DOI: 10.1007/s00381-012-1731-y

原論文URL: https://link.springer.com/journal/381(閲覧には購読またはジャーナルサイトでの検索が必要です)

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